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episode2-閑 委員長の独り言

 生徒会との争いにも決着がつき校内が落ち着いてきたある日、俺は放課後であるにもかかわらず数学Ⅱの教科書とノートを開いて学校の用意した問題集と向き合っていた。


「ぐぬぬ……。何回計算しても答えと正解が一致しねえ」

「ちょっと見せてください。……ここですね。公式の使い方が間違ってます。教科書のここに正しい解き方が載ってるのでもう一回やってみましょうか」


 こんなもの解けるはずがないと頭を抱えていると、横から委員長が覗き込んできてざっと俺の書き込みを見た後、間違っている部分にシャーペンで○をつけて教科書の該当箇所を指し示した。


「ここをこうして、ふんふん、これで……おお! 正解と同じ答えになった!!」

「その調子で次の問題にもチャレンジです」

「……あい」


 何をしているのかと言えば、一学期の期末試験に向けたテスト勉強というやつだ。

 俺は授業は真面目に受けている優等生なのだが、成績はお世辞にも良いとは言えないレベルであり、何の対策もしなければほぼ全ての教科で赤点を取ることは間違いない。

 一年生の時点で進級が怪しいほどだったのだが、当時そんな俺のことを見かねた委員長がテスト前に勉強を見てくれるようになり、以来テストのたびに勉強会が開かれている。


 ダンジョンアサルトに巻き込まれる前は魔術大学への進学を希望していたため高校卒業は必須だった。

 魔術師への道が絶たれた以上最悪中退でも問題ないと今は思っているのだが、折角ならみんな一緒に卒業したいじゃないですかと大恩ある委員長に言われてしまっては断ることも出来ない。

 そんなわけで、今もこうして委員長の教えを受けているのだ。


 ちなみに意外なことに、樹霧の奴は成績が良いとは言えないがギリギリ赤点は取らない程度であり、如月もそれより少し上くらいで二人とも進級が危ぶまれるほどではない。

 美月と古條は一年だから単純比較は出来ないが、二人とも学年での成績は上位らしい。

 つまり氷室団(仮)において学力的不安を一番抱えているのはこの俺というわけだ。嘆かわしい。


「せめて樹霧よりは良い点数を取りてーな」

「樹霧さんは一夜漬けが得意なんですよね。あと一週間か二週間前くらいから復習を始めてればもっと良い成績を取れると思いますけど」

「いやいや、そりゃ早すぎだろ。学生にんなことやってる余裕はねえよ」

「学生の本分は勉強のはずでは……? まあ、今しか出来ないことはあるとは思いますけど」


 クスクスと可笑しそうに笑いながら委員長も自分の問題集を解いている。

 とは言っても俺のように直接問題集に答えを書き込むのではなく、わざわざノートに書いている。

 なぜそんな面倒なことをしているのかというと、直接書き込んでしまうと二週目以降の復習の邪魔になるからとのことだった。

 何を好き好んでそんなに勉強する必要があるというのか。物好きな委員長だ。


「休憩だ、休憩にするべきだ。もう一時間も勉強してるぞ」

「集中しているとあっという間ですね」


 放っておくと委員長はいつまで経っても休憩をくれないのでキリのいいところで自発的に休憩を開始する。

 すると委員長もペンを置いて、小さくのびをする。流石に俺を置いてけぼりにして自分だけ勉強し続けるということはない。


「そういえば氷室くん、休憩ついでに聞きたいことがあるのですけど」

「おう、答えられることなら答えるぞ」


 雑談で休憩が長引く分には大歓迎だ。

 委員長が俺のことを思って勉強会を開いてくれているのはわかるが、面倒なものは面倒だからな。


「結局生徒会とのいざこざはどうなったんですか? なんだか変な騒ぎが起きたと思ったら、生徒会はいきなりホルダー狩りを止めますし黒石さんもいなくなってしまうしで全然状況がわからないです」

「あー、まあなんつーか、とりあえず生徒会には別の目的があって、それを達成したからホルダー狩りは止まったって感じだな。細かいことは言えねえんだけど」

「そうですか……。校内の秩序を守るというのは、建前だったとしても中々良い成果をあげていたと思いますけどね」

「ま、今後調子に乗ってる奴が出てきたら俺たちでシバいてやるよ。咲良第二の最強勢力がどこで最強ホルダーは誰かってのは知れ渡っただろうからな」

「枡米さんがここぞとばかりに活き活きと新聞を撒いてましたからね」


 生徒会と俺たちの戦いに決着がついたこと、そしてその内容は俺たちの完全勝利であったことは枡米の手によって周知されている。

 今後生徒会に押さえつけられてたホルダーが暴れ出すかもしれねえが、そん時は俺たちがぶちのめしても良いし、生徒会だってホルダー狩りを止めたとはいえ治安維持を放棄する気はないだろうからそこまで心配する必要はない。

 登校しなくなった黒石や異能を失った朱鷺戸はともかく、トップ戦力の会長と副会長は健在で坂島の異能も直に回復するため、さほど弱体化してるわけでもないしな。


「それにしても、会長はともかくどうやって坂島さんの異能を打ち破ったんですか? あれは力業でどうこう出来るタイプの異能ではなかったと思いますけど……」


 ふむ、マスカレイドの件は緘口令が敷かれているため詳細は話せないが、俺の異能に関することであれば線引きの範囲内なら問題はないか。


「俺の異能、君臨する支配は一定範囲を支配する。この一定範囲ってのは場であり空間、そして世界だ。世界系の異能で作り出された世界も支配して破壊できる」

「世界の支配、ですか。なんだか壮大な異能ですね」

「いや、スケールは全然小さい。世界つっても、それこそ世界系能力で作られた世界が限度だろうぜ」


 君臨する支配の効果範囲は俺のレベルアップと共に拡大されてるが、現状では半径1km程度。

 もし坂島の世界がもっとスケールのデカイものだったら完全破壊出来ていたかはわからない。


「……今はまだ、ですね」

「え? なんか言ったか?」


 委員長がボソリと何か呟いたような気がしたが聞き取れなかった。


「いえ、ふと疑問に思って。支配した世界は壊すだけじゃなくて、ルールを書き換えたりは出来ないんですか? 坂島さんの異能で言うなら、例えば戦闘禁止を撤廃したりとか」

「……委員長も意外と異能の話は好きなのか?」


 結論から言うならそれは出来る。明の不可視の鬩ぎ合いボーダーオブインビジブルを利用して色々実験したからそれはわかってる。とはいえ全く違うルールを敷くことは出来ず、委員長が言ったように既存のルールを撤廃したり、多少ねじ曲げたりするくらいだけどな。坂島戦では野次馬が解散するより早く坂島賭博場を脱したかったから単純に破壊したが、ルールを逆手にとって坂島たちをハメることもやろうと思えば出来た。

 ただこの辺の話は明や美月とも話し合いながら色々試した結果わかったことであり、今俺の話を聞いただけでいきなりそういう使い方を思いつくというのは、中々異能に対する造詣が深い。あるいは発想が突飛だ。


「異能そのものは好きでも嫌いでもありません。ただ、知ろうとする努力を放棄して良いとは思わないので」

「なんだ、好きなら異能談義でもしようかと思ったんだけどな。質問に対する答えは、部分的に可能、って感じだな」

「氷室くんがしたいなら付き合っても構いませんけど、それは勉強が終わってからにしましょうか」

「つーかテストが終わってからだな。異能談義なんか始めたら詰め込んだ内容が全部出てっちまう」


 委員長の空気銃エアガンも詳細は全然知られてないから教えてくれるなら聞きたいが、今は我慢だ。


「そうですね。ああ、あと話は変わりますけど、比島先輩の停学がそろそろ明けるはずですから気をつけてくださいね」

「わかってる。場合によっちゃ俺を狙って来るだろうし、噂に聞くとおりなら普段より強いだろうからな」


 本当に唐突な話題転換だが、委員長としてもそれだけ気にかけていたのだろう。

 比島飼育委員長の異能は通常時なら舞締会長に少し及ばない程度だが、樹霧のように特定条件を満たすことで強化されるという噂を聞く。そして俺は恐らく、その特定条件を満たしている。

 次の戦いもきっとそう遠くはない。胸が躍るな。




・   ・   ・




 今日の分の復習を終えた氷室が荷物をまとめて教室を後にするのを見送って、委員長は小さく溜息を吐いた。


「灯台もと暗しとは言いますけど、まさかこんなに身近なところで見つかるとは……。咲良は曰く付きの町なんでしょうか」


 その呟きは、肩すかしを食らったかのような、これまでの苦労はなんだったのかとでも言うような、徒労感に溢れる声音だった。


(ですがこれで確定しましたね。ダンジョン内で沖嶋くんたちの異能を起動できるようにしたこと、そしてダンジョン外でもスキルを発動出来たこと。可能性は高いと思っていましたけれど、やっぱりそういうことでしたか)


「ロウ、こちらマーズです。ようやく見つかりました」


 スマホを持っているわけでもなければインカムをつけているわけでもない。

 通信機器と思わしき物は何一つ見当たらないが、委員長はここにはいない何者かに語りかけるように言葉を続ける。


「世界の理を支配するホルダーが」

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― 新着の感想 ―
ヤバい! 狙われる!?
ロウが出てくるってことは魔法少女とも今後本格的に絡んできそう
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