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episode2-49 黒と白

 黒石の抵抗は精神や魂というような、明確に形を認識することが難しい、言わば不可視の領域で行われているものだった。

 だから黒石自身、一体自分が何をどうやってキメラの浸食に抗えているのかは理解出来ていなかった。ただこのまま終わるわけにはいかないという強い意志が黒石の何かを突き動かしていた。


 そんな不明瞭で曖昧な、目で見えない争いに、今、形が与えられ、雌雄を決するための世界が創り出される。


「……ここは」


 黒石はいつの間にか、足場以外はほとんど何も存在しない真っ黒な空間にいた。

 先ほどまで聞こえていたはずの舞締の声も届かない、静寂に支配された、どこまでも続いているような広い場所だ。


 そんな真っ暗な空間の中にあって、されど強烈な存在感を示す者が一人。


「……」


 獅子の頭部に山羊の身体、蛇の尾を有する異形の怪人、マスカレイド・キメラ。

 しかしそれはキメラであってキメラではない。本物のキメラの精神は今も現実世界で暴れまわっている。

 この場所に現れたそれは、今まさに黒石の全てを奪い尽くそうと浸食を続けている力の化身。マスカレイド・キメラという力そのもの。ゆえに言葉を解することはなく、ただその力を行使するのみ。


 なぜかはわからないが、黒石はそのことを直感的に理解した。

 そして目の前の存在を打ち破ることで、キメラの浸食を跳ね除けることが出来るということも。


「マスカレイド・ブラック!」


 強制的な命令によって変身させられた時とは違う、強い決意を持って黒石は初めて自らの意思で変身する。インポスターの怪人としてではなく、ただ友のために戦う一人のホルダーとして。


「その喧嘩、俺も混ぜてもらうぜ」


 キメラとブラック以外には誰もいなかったはずの空間に、若い男性の声が響き、かと思えばいつの間にか、ブラックと肩を並べるようにして真っ白な仮面のヒーローが隣に立っていた。


「……マスカレイドホワイト? どうして?」


 その疑問には様々な意味が込められていた。どうしてこの場所にいるのか、どうして自分の味方をしてくれるのか、どうして平和な日常に戻れたはずなのに首を突っ込んで来るのか。


 マスカレイド・ホワイト、加賀美隼人。

 ブラックが生み出される原因となった原初のマスカレイド。

 本来の自分の抹殺対象の一人であり、自分や舞締以上にインポスターとの因縁が深い人物。


 加賀美と八木橋はもう十分戦った。これ以上巻き込む必要はないという異能庁の配慮から今回の作戦については一切知らされておらず、平和で幸福な学生生活を謳歌しているはずだった。

 八木橋香織が今回の騒動に巻き込まれてしまったのは事実だが、だとしても今の状況なら一緒に避難して救援を待つことも出来たはずなのだ。それなのにどうして、わざわざ自分から危険な道を選ぶのか。


「話は無事に終わったらな。行くぞ!」

「……ありがとう。できれば少し時間を稼いでほしい」


 白と黒のマスカレイドが頷き合って同時に駆け出し、二人を待ち受けるキメラへと迫る。


「アーチャーフィッシュ」


 胸部が膨らんでいく様を見て取れるほど大きく息を吸い込んだキメラが、勢いよく炎を噴き出す。

 それに対し、ブラックは水を射出するアーチャーフィッシュの能力を呼び出し、両手を前に構えて炎を相殺するように掌から水鉄砲を放った。


 ブラックはホワイトと違い、他のマスカレイドの能力を使う際も名前を口にだす必要はないのだが、初めて連携するホワイトに自分の行動を知らせるためあえて名前を呼んでいる。

 様々な生物の生態に詳しくなければ名前を聞いただけではどんな能力なのかわからないかもしれないが、ホワイトの場合実際に自分が戦って苦しめられた怪人の能力であるため、説明などされなくてもよくわかっている。


「マスカレイド・マンティス!」


 ブラックが炎を相殺している隙にホワイトは攻撃的なマンティスへとフォームチェンジし、身をかがめてキメラの懐に潜り込み、下から掬い上げるように首を狙って鎌を振るう。

 それに気が付いたキメラは炎を噴き出すのを中断して迫りくる鎌の刃を歯で噛むようにして受け止め、そのまま噛み砕いてローキックを繰り出すが、ホワイトはその蹴りに勢いが乗り切る前にもう一本の鎌で切り払い膝から下を切断した。


「これは親父の分!」


 加賀美の父が改造された怪人、それがマスカレイド・マンティスだった。

 まだ戦い始めたばかりの頃の加賀美は、自分が死なずに相手を倒すので精一杯で、トドメを刺すその時までそれが父なのだと気づかなかった。

 勝敗が決し、変身を維持できなくなった父が爆発する様を、ただ呆然と見ていることしか出来なかった。


「マスカレイド・ビートル!」


 片足を切断されたキメラが再生のため隙を晒したタイミングで能力を切り替え、堅牢な外骨格と優れた膂力を併せ持つビートルへとフォームチェンジし、体勢を立て直す暇を与えずに強烈なラッシュを叩き込む。

 獅子の頭や山羊の身体をボコボコに陥没させ、再生したそばから再び肉体を破壊していく。


「これは母さんの分!」


 マスカレイド・ビートルは母が改造された怪人。

 一度人間の姿のまま家に帰って来て、加賀美と同様に何とか逃げ出すことが出来たと言って加賀美を油断させ、隙を突いて暗殺しようと襲い掛かった。

 母の弟であり加賀美の叔父である山城が違和感に気が付き正体を見破ったため辛くも勝利することが出来たが、一度は帰って来たと思った母を手にかけることは加賀美の心に大きな傷を残した。


「マスカレイド・スパイダー!」


 強烈なラッシュに耐えかねたように後ずさりするキメラを、スパイダーにフォームチェンジし糸で拘束することで身動きを封じ、そのまま糸を振り回して地面に叩きつける。

 いくらキメラが最新型のマスカレイドとはいえ、何の代償もなく無限に再生など出来るはずもない。エネルギーは確実に消耗しており、即座にスパイダーの糸を引きちぎることも出来ないほどに弱体化しつつあった。


「これは雀芽の分!!」


 加賀美の妹である雀芽までもが、マスカレイド・スパイダーへと改造された。

 まだ小学生の小さな子供だった。様々な可能性を秘めた、未来のある子供だったのだ。

 それをインポスターは、人格は残したままに、命令には絶対に逆らえない兵隊として改造した。

 大好きな家族と戦いたくなどないのに、いつの間にか化け物へと姿を変えられ、身体は勝手に兄を殺そうと襲いかかってしまう。そんなわけのわからない恐ろしい存在へと貶められた。

 捕縛することさえ出来れば、妹だけは助けられるかもしれない。まだ妹は死んでいないという希望を抱いた加賀美は、無力化された瞬間に起動した自爆装置によって心身に大きなダメージを受けることとなった。

 この時初めて、加賀美はどうやってもマスカレイドは助けられないのだと知ったのだ。


 怖い、嫌だと泣き叫んでいた雀芽の声を、加賀美は今でも忘れることが出来ない。


「決めろ! ブラァァァック!!」

「これで終わらせる」


 悲鳴にも感じられるほどの悲痛な叫びに応えるようにブラックが呟いた。

 ホワイトがキメラの余力を削り、時間を稼いでくれている間、ブラックは自分の力と向き合っていた。


 本来のブラックのブレイクは、暴走しながら他のマスカレイドを喰らい進化し、分離によって無尽蔵の兵隊を生み出す危険なもの。しかしキメラの力を取り込んだことで、キメラのブレイクである『マスカレイドの融合と調和』の要素を併せ持つようになった。まだ完全な融合は済んでいないものの、ブラックとキメラの力は混じり合い始めているのだ。

 そしてブラックは今の自分の状態を見つめ直すことで気が付いた。

 今ならば、暴れようとする力と自分自身を調和させ、この膨大な力を使いこなすことができると。


「ブレイクマスク」


 光を発することもなければ、肉体が膨れ上がることもなく、異形の存在へ変貌することもない。ただ、目では見えないはずの圧力が、目に見えて変わった。ここは不可視の鬩ぎ合いボーダーオブインビジブルによって可視化された世界。目で見えないものすらも目に映る。


「私の身体、返してっ」


 ようやくスパイダーの糸から抜け出し体勢を立て直したキメラに向けて、ブラックが持つ全ての力を乗せた拳が勢いよく叩き込まれた。耐久力の限界を迎えたキメラの身体が四方八方に飛び散るように爆散し、ピクピクと僅かに動いた後、完全に沈黙する。


「終わったんだな」

「……多分」


 世界が崩壊するかのように、真っ黒だったはずの空間に光の粒子が舞い始める。

 それはホワイトやブラックも例外ではなく、互いに身体が透けて足の先から分解されるように光へと変わりつつあった。

 しかし苦痛や恐怖はなく、不思議と役目を終えた世界が消えて現実に戻るのだと理解出来た。


「んじゃ、またあっちでな!」


 変身を解除した加賀美が快活な笑顔で手を振って、一足先にこの世界から去って行った。

 残された黒石もまた変身を解除して、残りの時間でこれからのことを考える。

 現実世界に戻れたとして、自分に課せられた抹殺命令がどうなっているのかは自分でもわからない。もしかしたら、ホーネットやホワイトの姿を見たらまた問答無用で襲い掛かってしまうかもしれない。

 仮にそうでなくても、インポスターの残党を釣りだすという目的があったからこそ学校生活を許されていた自分が、これからも舞締たちと過ごせるかどうかはわからない。本当はキメラを制圧するはずだったのに、利用されて逆に事件を起こしてしまったという汚点もある。


 それらの不安に明確な答えは出せないまま、仮初の世界は終わりを迎えるのだった。

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― 新着の感想 ―
王道的好敵手な行動だ! どうやって精神世界(?)に入り込んだかは解らないけど。
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