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episode2-48 黒石菜々

 黒石菜々は裏切り者のマスカレイドを抹殺するために造り出された人造怪人で、道具に意思は不要という思想を設計者のDr.ヴォイドが持っていたこともあり、自我がほとんどなく感情も希薄な、生きた人形のような存在だった。

 そのため培養槽の中にいた時も、解放されて研究員を虐殺した時も、舞締に連れ出された時も、何も考えず、何も感じていなかった。命令を達成するという以外の目的意識がなく、インポスターへの帰属意識も持たない、非常に虚ろで不安定な精神。


 しかし、意思や情緒が一切存在しないかと言われればそうではない。黒石は言わば生まれたての赤ん坊のような存在であり、適切な教育を施すことである程度は人間に近い考え方や感情を持つことが出来るはずだと診断され、入学までの限られた時間の中で赤子に行うような情操教育が行われた。

 その結果がすぐに出ることはなかったが、舞締を校内での教育係として常に行動を共にさせ、さらに監視役として異能庁から教員が一名派遣されてもしもの事態に備え、計画は本格的に動き出した。



 2026年4月

 入学とほぼ同時に生徒会の活動を補佐する団体、生徒会補佐連合会へ所属することとなる。

 これは舞締が生徒会庶務であるため、なるべく校内で一緒にいる時間が長くなるようにという異能庁からの指示によるものだ。

 常に無表情で、話しかけられても無言で頷いたり首を振る程度の反応しか示さない黒石は早々にクラスで孤立し始めるが、それを気にした様子もなく、平凡な学生のように過ごしていた。


(懐かしい。和佳奈は学年が違うのに休み時間の度に心配そうな顔で私のところに来てた。きっと大変だった)



 2026年5月

 初めての中間試験でありながら、学年9位という好成績を叩きだす。

 黒石は造り出される際に一般常識やある程度の教養をインプットされているため、赤ちゃん並みの情緒に反して知識は舞締を上回るほどに豊富だったのだ。

 異能庁の職員は入学前の検査でそれを知っていたため特に驚きもなかったが、初めてそれを知った舞締は大層驚き、偉い偉いと小さい子を褒めるような勢いで黒石を撫でまわした。


(くすぐったかった。けど、嫌じゃなかった)



 2026年6月

 咲良第二高校の体育祭は毎年6月に開催される。

 運営を主導するのは体育委員だが、生徒会も携わるため補佐として黒石も裏方に励むこととなった。

 また、人造怪人である黒石は変身せずともかなりの身体能力を発揮でき、異能入り乱れる体育祭当日においても八面六臂の活躍を見せた。


(和佳奈と同じチームだった。和佳奈が目指せ優勝って言うから頑張った)



 2026年 夏休み

 7月の期末試験でも優秀な成績を収めた黒石は、夏休みの間毎日のように舞締に連れられて様々な場所へ遊びに出かけた。

 海、プール、登山、カラオケ、映画、花火、お祭り、等々。夏の定番からそうでないものまで、生まれたばかりの黒石にとっては初めてのものばかりとなる体験だった。


(和佳奈が色んなところに連れて行ってくれて、あの時はまだその気持ちが何なのかわからなかったけど、今ならわかる。楽しかったんだ。また来年も一緒に、色んなところに行きたいと思うくらい)



 2026年9月

 生徒会選挙が実施され、舞締が会長に当選する。

 元々成績優秀で人柄もよく、生徒会庶務として優秀な働きを見せていたことで前会長からの信頼も厚く、前評判通りの結果だった。

 舞締が役員を指名し、黒石の事情と今後の計画を説明した後、承諾を経て現生徒会が発足。

 前生徒会メンバーの卒業後にホルダー狩りを開始し、マスカレイドと呼ばれる怪人を発見・捕縛する計画はこの時点で既に決定していた。


(彦根先輩、朱鷺戸、耀たちと初めて話した。この頃はまだ、興味なかった)



 2026年10月

 一年生は校外学習があり、日帰りで鎌倉へ出かけることとなる。

 こればかりは流石に他学年の舞締が付きそうことも出来ず、生徒会役員の朱鷺戸と坂島が黒石の面倒を見ることとなる。

 とはいえ、この時期になると黒石もそれなりに情緒が発達し、一般的な水準よりは起伏が乏しいものの感情を持ち始めていたため、入学当初の舞締の負担と比べれば、少しばかりコミュ力の低い相手と行動を共にする程度のものだった。

 さらに言えば、他校の生徒と喧嘩している咲良第二高生を止めるため朱鷺戸が異能で制圧し警察に怒られたり、折角だから神奈川の店で打って行こうと坂島が勝手にパチンコ屋へ向かったり、むしろ問題行動を起こしたのは黒石以外の方だった。


(朱鷺戸と一緒に戦ったら怒られた。理不尽。耀に付いて行ったお店は眩しくてうるさかった。何が面白いんだろう)



 2026年11月

 文化祭が開催される。主導するのが実行委員で生徒会は裏方の手伝いをするというのは体育祭の時と同様だが、あの時はまだ生徒会連だった黒石も生徒会庶務となった。舞締や坂島らと共に慌ただしく準備にいそしむこととなった。

 またそれとは別にクラスの出し物である異性装喫茶の準備にも駆り出された。この頃にはクラスメイトも黒石の寡黙ぶりに慣れきっており、親しい相手はいないが変に浮いているわけではないという程度には馴染んでいた。

 当日は生徒会での出し物はないため、執事服を着てクラスの喫茶店で給仕をしたり、キャーキャーと楽しそうにはしゃぐ舞締に写真を撮られまくったり、生徒会役員と一緒に文化祭を回ったりと忙しくも充実した日を過ごした。


(準備は大変だった。けど、学校がお祭りみたいで楽しかった。和佳奈が凄く喜んでて私も嬉しかった)



 2026年 冬休み

 短い休みの中にイベントが詰め込まれており、舞締主催のクリスマスパーティーを開いたり、元日には初日の出を皆で見に行ったりと、夏休みにも増して賑やかな長期休暇となった。

 彦根と坂島が舞締と黒石を言い包めて賭けマージャンに誘ったり、それを後から知った朱鷺戸が違法賭博だと激怒したり、折角冬なのだからと東北へ日帰り遠征してウィンタースポーツに興じたりと、イベント以外にも様々な思い出が残る冬休みだった。


(和佳奈だけじゃなくて、みんなと遊ぶのも楽しいって、もう気づいてた。本当に賑やかで騒がしくて、楽しかった)



 2026年3月

 前生徒会役員を含む三年生が卒業していった。

 舞締は必要以上に生徒を巻き込まないようにするため、前生徒会役員に対しては黒石のことを何も説明していなかった。

 だから彼らは何も知らず、別れを惜しみながらもそれぞれの進む道を歩いて行った。

 生徒会業務の引継ぎで黒石も前生徒会のメンバーとは度々顔を合わせており、黒石にとってそれなりに親しくなった相手との初めての別れでもあった。


(二度と会えないわけじゃない。だけど会う機会は凄く少なくなる。初めて、寂しいという感情がわかった気がした)



 2027年4月

 新一年生の入学を、今度は迎える立場で見ることとなる。

 しかし生徒会の面々に和気藹々とした空気はなかった。

 マスカレイドが潜入してくるとすればこのタイミングが最も潜り込みやすい。当然、学校側も異能庁からの説明を受けて警戒はしているが、それでも舞締たちもピリピリとした空気を纏っていた。

 前生徒会の世代が卒業し、いよいよホルダー狩りを始める直前というのも原因の一つだったのだろう。


(理由はわかっていた。合理的だとも思った。だけど、あの楽しくない雰囲気は嫌だった。みんなで楽しく騒いでた日々が恋しかった)



 2027年5月

 いよいよホルダー狩りを開始した。

 まずは校内のホルダーを全て生徒会連に所属させ、定期的に異能のお披露目会を実施することで、マスカレイドか否かを確認する。マスカレイドは能力を使用するのに必ず変身が必要となるため、異能発動の瞬間を確認できさえすれば判別は難しくない。

 最初は生徒会役員が動き、ある程度使えるホルダーが生徒会連に所属したら、強度の低いホルダーの勧誘は生徒会連に任せる。そして生徒会役員は強度の高いホルダーに的を絞って勧誘を行う。そのために、舞締は生徒会を発足するにあたって校内でも指折りの実力を持ち、なおかつ事情に理解を示してくれそうなホルダーを指名したのだ。

 黒石は計画の大詰めで使う餌であるため、その時まで異能の使用は禁じられており、他の役員が戦い傷つく様をただ見守ることしか出来なかった。


(私が普通の人間だったら、みんなと一緒に戦えたのに。

 私が普通の人間だったら、こんなことしなくて良かったのに。

 私が普通の人間だったら、毎日みんなと生徒会の仕事をして、遊んで、楽しく過ごせたのに)



 2027年6月

 中旬ごろには校内のホルダーの9割以上を生徒会連に所属させることに成功して、残るは逃げ足の速いホルダーや純粋に強いホルダー、そして異能を隠しているホルダーだけとなる。

 ホルダー狩りを開始するまで、舞締は人当たりが良く優秀ではあるが特筆するほど尖った部分はない、地味な生徒会長というのが生徒たちの共通認識だった。

 しかし突然の凶行に加えて電撃的な行動力によってあっと言う間にホルダーのほとんどを傘下におさめたことで、賛否両論の様々な評価が囁かれるようになった。

 常識に照らして、舞締の行動は事情を知らない者からすれば批判の対象となってもおかしくないものであり、それは一般常識を持つ黒石にも理解できることだった。

 ただ、自分の好きな友人が悪く言われることはたまらなく嫌だった。


(私のせいで和佳奈は沢山の人に嫌われた。私のことなんて放っておけば良かったのに。悪の組織の怪人だってわかった時に、自分には関係ないって突っぱねてくれれば良かったのに。そうしたら、こんなに悲しいと思わなくて済んだのに……)



 2027年7月

 ダンジョンアサルトの影響による休校が明けた後、炙り出された隠れホルダーの勧誘を開始する。

 当初の予定にはない氷室凪一派という第三陣営に場を引っ搔き回されたものの、それを利用して自然に黒石を孤立させ、マスカレイドを釣るという作戦を実行する。

 すると見事に怪しい人物からの接触があり、それが残る唯一の残党であるマスカレイド・キメラであることも会話の内容から判断できた。

 そして、あとはキメラを取り押さえるだけという段階で、マスカレイド・ホーネットの姿を確認した瞬間、機械の電源を落とすように唐突に黒石の意識は途切れた。



 かくして時は今へと至る。

 黒石は一瞬を拡張したかのような記憶の追想を体験して、それが走馬灯のようなものであることを理解した。

 敵を釣りだして捕らえるはずが、まんまと生みの親であるマスカレイド・キメラの罠に嵌められ、暴走し、食らおうとした相手に逆に取り込まれかけていることを思い出した。


 けれどもう、自分の意思では乗っ取られた肉体を止めることは出来ない。

 大切な友人が共に歩み、育んでくれたこの自意識は、今にも呑み込まれて深い場所へと沈んでしまいそうなほど薄れつつある。

 いや、本当は一度完全に沈められたはずだ。だから肉体の制御を完全に奪われた。

 ならば、なぜ再び意識が浮上しかけているのか? その疑問の答えはすぐにわかった。


――みんなのことは私が説得するから! もう暴れないで!!


 声が聞こえたのだ。

 大切な友の、自分を呼ぶ声が。

 その呼び声に応えるように、黒石の意識が冴えていく。


――負けないで菜々ちゃん!! 彦根くんも! 耀ちゃんも! 朱鷺戸くんも! みんな菜々ちゃんと一緒にいたいと思ってる!! だから目を覚まして!!


 舞締は黒石を見捨てない。見捨てられるような人間じゃない。そんな器用なことは出来ない。

 だから今、目の前で変身もせずに声をあげる舞締を助けるには、黒石が抗わなければいけない。


――菜々ちゃん! 頑張って! 帰って来て!! また一緒に遊びに行こう!! みんなで沢山お話しよう!!


 普通の人間だったらなんて、見捨ててくれればなんて、無意味な仮定だった。

 あの楽しかった日々を取り戻したいのなら、舞締の汚名を晴らしたいのなら、嘆くのではなく抗うのだ。


――菜々ちゃんとしたいことが!! まだ一杯あるんだ!!


(私もあるよっ、和佳奈!)

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