黒猫のシャルルと金魚のヤマモト
『なろうラジオ大賞5』参加作品。
テーマは「金魚」です。
ボクはシャルル。フランス生まれの黒猫さ。ご主人様も生粋のパリジェンヌ。ボクはご主人様のサラサラな髪で遊ぶのが好きなんだ。
朝ごはんにはオーガニックなクロワッサンやバケットを食べるよ。自分で言うのもなんだけれど、悪くない生活をしていると思う。
「にゃあ」
ご主人様の腕の中。鏡に映る一つの大きな水槽。これが今のボクにとっては興味の的だ。
(中で泳いでるマヌケな魚はなんだろう?)
ご主人様はその魚を『ヤマモト』と呼んでいる。ボクと同じように可愛がられていた。
(ヤマモト。変な名前。絶対シャルルの方が格好いいのに……)
それでも、挨拶はしなくちゃいけないね。ご主人様が仕事の支度をしている間に、ボクは水槽に近づいて、水の中のヤマモトのおでこを撫でた。
ぽにょんと弾むヤマモト。ビックリしたボクは水槽をキックしてしまった。零れる水。
ご主人様は、
「オーラ―、ダメよシャルル。ヤマモトは食べ物じゃないわ」
そう言って、ボクを隣の部屋に移した。
「にゃあ」
(水槽を蹴ったのは悪いけど、わざとじゃないんだよ)
ひょんとしてるボクの表情を見て、ご主人様は笑った。ご主人様は、四角い小さな画面を持ってきて、ボクに話しかける。画面には沢山のヤマモトが映っていた。
「ヤマモトは、異国の金魚という愛おしい魚なの。この子は炎のように真っ赤だけれど、もっといろんな模様を持つ子がいるのよ。優雅でしょう?」
「にゃあ」
(正直あまり品を感じないなぁ。口をパクパクしていてマヌケだ)
ご主様は、ボクをひと撫ですると、水槽の水を換えに行こうとする。ボクは構ってほしくてご主人様の足首に巻き付く。
「あとでね」
「にゃあ」
(ふん、ヤマモトの何が良いんだか)
ボクが拗ねたように鳴く。ご主人様はクスッと笑った。ご主人様が水槽の水をバケツに移している。気になって覗きに行ったバケツの中で、ヤマモトが動いていた。なんか、トイレみたいな臭いだな。
「にゃあ」
(ご主人様。手が臭くなっちゃうよ)
ヤマモトを追い出そうと考えたボクは、バケツに頭突きをする。反動で、バケツの水がボクに掛かる。
「にゃあ」
(うへぇ……臭いよぅ)
ご主人様は楽しそうに笑っていた。
「シャルル。ヤマモトと仲良くね」
バケツの中のヤマモトは相変わらずマヌケ面だ。コイツの良さは判らない。でも、ご主人様の命令じゃ仕方ないか。
「にゃあ」
(仲良くしようじゃないか)
ヤマモトは相変わらず、口をパカパカ開けてこっちを見ていた。