エア夏祭り
夏のよく晴れた暑い日。
僕は近所のおねーさんと神社へと出かけた。
「あっ、いたいた」
おねーさんは目当ての物を見つけたようだ。
そこには一人のオジサンが何もない机の前に座っている。
「よく来たね、楽しんで行ってね」
小さめの麦わら帽子をかぶり、丸い眼鏡をかけたオジサンがにっこりとほほ笑む。
「ねぇ、おねーさん。ここで何をするの?」
「エア夏祭りだよ」
「え? エア?」
「早速はじめよっか!
オジサン! まずは金魚すくい!」
「あいよ!」
オジサンは何か持っているかのように両手を差し出す。
「ほら、受け取って」
オジサンの手には、ポイと器があるらしい。
しかし、そこには何もない。
僕はオジサンから何かを受け取るふりをする。
そういう遊びなんだと理解した。
「それ! えい!」
「お嬢ちゃんはうまいねぇ」
おねーさんはエア金魚すくいをする。
何が楽しいんだろうと疑問に思いながら、僕も挑戦することにした。
「大きいのを取ったね! すごいぞ!」
「え? あっ……はい」
オジサンが褒めてくれたけど、全然嬉しくない。
「オジサン、次はかき氷!」
「あいよ!」
オジサンは何かを操作する仕草をする。
どうやらかき氷を作っているらしい。
「おまち!」
何かを差し出すオジサン。
それを受け取る僕たち。
「うーん! 来た来た来た!」
目を閉じるおねーさん。
どうやらアイスクリーム頭痛を感じているふりらしい。
僕も真似してやってみる。
「シャリシャリ、美味しい!」
「へへ、分かって来たみたいだね。
目を閉じてもう一度やってみて」
オジサンにそう言われたけど、目を閉じたところで何も変わらない。
――はずだった。
目の前が真っ暗になった途端、どこからかお囃子の音が聞こえてくる。
沢山の人の気配に話し声。
香ばしい匂い。
夏祭りのあの感じ。
目を閉じたら、そこには夏祭りのあの光景が広がっていた。
シャリシャリ。
口の中で溶けていくかき氷。
まるで本当に食べているようで……。
「……むぐっ」
「美味しい?」
目を開けると、おねーさんがかき氷アイスを僕の口に突っ込んでいた。
机の上に置かれたスマホにはお祭りの動画が流されている。
香ばしい匂いは鼻に近づけられたスナック菓子だった。
「こんなご時世だから、これくらいしかできないけど。
来年はちゃんと開催するから待っててな」
オジサンはニコリとほほ笑んで僕の頭を撫でる。
下らない遊びだったけど、ほんの一瞬だけ夏祭りのあの感じを思い出せた。
来年は本物のお祭りを楽しみたいな。
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