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スタイリッシュな武道家を目指す男は、最強の武器【万節棍】で無双する

作者: インド

「聞いてくださいよ先輩」


仕事帰り行きつけの店でジョッキを片手に後輩は愚痴をこぼす。


「どーした? 」


「俺武道家辞めますわ、転職しますわ」


「辞めるの早くないか?武道家に転職したの二週間前だろ、なんでやめるの? 」


「いや、それがムカつくんすよ。聞いてくださいよ先輩」


 後輩は煙草に火を着け、一服しながら話しを続ける。


「武道家ギルドから斡旋されたパーティに入った話はしたじゃないすか。そいつらと合わねーんですわ」


「合わないって、性格が合わないの? 」


「いや、スタイルっすよ。俺の目指す武道家像と奴らの武道家像が違うんですって」


「どんな感じで違うのよ? 」


「先輩、武道家ってどんなイメージあります? 」


「そりゃあ、鉄の様に鍛え上げた拳と華麗な足技とかで戦うイメージかな」


「まあ一般的にはそんなイメージっすね。でも俺の中のイメージは違うんですよ。聞きたいですか? 」


「わぁ聞きたーい」


 俺はテーブルをおしぼりで拭きながら後輩に答えた。


「俺の目指す武道家、それは……様々な武器を使ってスタイリッシュに戦う武道家ですね」


「おお。それは凄いなー」


俺は後輩から煙草を2本失敬し、2本とも火をつけ吸ってみる。なかなかパンチの効いた吸いごたえだ。


「色んな武器があるんすよ、例えばヌンチャク。これはメジャーすぎて説明するまでも無いですね」


「はーい!ヌンチャクってなんですかー? 」


「もう、知ってるくせにー。でもそんな先輩に説明したりますわ。程よい2本の棒の頭と頭を鎖とかヒモで繋いだ武器ですわ」


「なるほど。これは為になりますね」


「こいつをスタイリッシュに振り回して棒の所で殴るんですよ」


「そいつはヤベェな」


「かなりヤベェですね。まだまだありますよ、お次は三節棍です。これは程よい3本の棒を鎖とかヒモで繋いだ武器です。ヤバくないですか? 」


「ああ。ヤベぇ」


「こいつをスタイリッシュに振り回して棒の所で殴るんです」


「ちょ、ちょっと待ってくれ!」


「なんすか? 」


「トイレ行ってくる」


「あ、はい」




「お待たせ」


「いえいえ」


「で、なんだっけ? 」


「いや、武器の話ですよ」


「ああ、そうだったね」


「続けますね。ヌンチャク、三節棍と説明しましたがこの武器達にインスパイアされてオリジナルの武器を作ってみたんです」


「おお!そ、それは一体どんな武器なんだ! 」


「今日一食い気味に来てくれましたね、嬉しいです。その武器の名は【万節棍】です。万の棒を鎖とかヒモで繋いだ武器です……こいつをスタイリッシュに振り回して棒の所で殴ります」


「テメーよ、さっきから棒を繋げて振り回して殴ってるだけじゃねーかよ!スタイリッシュ舐めんじゃねーぞ! 」


「ハハハ。先輩も【万節棍】を見たらそんなことセリフは吐けなくなりますよ。」


「なにぃ!」


「先輩ならそう言うと思って持って来てありますよ【万節棍】をね」


後輩はニヤリと笑い「着いて来て下さい」と俺を挑発するように外へと誘う。


「まて…………お会計しなきゃな」


 俺はレジでお会計を済ませる。もちろん可愛い後輩には一円だって払わせたりしない。それが俺のスタイルだ。



「先輩、ご馳走さまでした」


後輩は深々と俺に頭を下げて礼を言う。まったく可愛い奴だぜ。


「いえいえ。それより見せてくれ【万節棍】とやらを」


「いいでしょう。びっくりし過ぎて反吐を吐かないで下さいよ! 」


 後輩は地面に置かれた大きな布を手に持つ。布は盛り上がっており、あの布の下に【万節棍】があることを俺に予感させた。


「こいつが【万節棍】だ! 」


 後輩が勢いよく布を引っ張ると布の下から【万節棍】が姿を現す。



「これが【万節棍】か……」



 【万節棍】を見て俺が感じたイメージは沢山の棒の山だ、イメージと言うか実際に沢山の棒の山だった。

しかしよく見ると棒と棒の間がヒモとか鎖で繋がれている。



「先輩これ持っててください伸ばしますから」



 後輩は俺に棍の先頭の棒を持たせると、もう一方の先頭の棒を持ち【万節棍】を伸ばして行く。



 そして最大まで伸びた【万節棍】は凄い長さだったそれも当然の話だ。なにせ程よい棒を万も繋ぎ合わせているのだから。



 常人にはとてもじゃないがこれを振り回して殴りつけるなんて出来るはずがない。



「先輩。いま思ったでしょ?常人にはこいつを振り回せるはずがないって」


 おれは後輩に心を見透かされたようで恥ずかしくなった。



「じゃ、じゃあ見せて見ろよ!こいつを使う所を! 」



 恥ずかしさで語気は荒くなってしまったが。その言葉にはこいつを振り回す所が見られる期待も込められていた。



「フフ。先輩、先輩はまったく正しい。常人にこの【万節棍】を振り回すのは無理ですよ。それは正解です。だから常人である俺にこの【万節棍】を振り回すのは無理ですね」


「ふっ、ふふふ」


「フフフフ」


「ははははは」


「ハッハッハッハッ」


「帰るか! 」


「はい!先輩! 」


 笑いあった俺たちは、転がる汚い万の棒を残して帰路に着く。



「先輩……世の中って上手くいかないことばっかですね…… 」



 後輩は何やら物憂げな顔で俺に呟く。



「ああ。そうだな」


 俺はポケットからタバコを取り出し火をつける。



「【万節棍】なんて使い物にならねーの気づけよって話しですよね。あんなもん作るのに労力使って、ほんと時間の無駄でしたわ……… はは、ほんと意味ねー………」



 もうすぐ夜が明ける。



「意味ならあったんじゃねーか」


「えっ? 」


「たしかに【万節棍】は無駄に長いだけの汚らしい棒だ………でもあんなもんでもお前が頑張って作ったと思ったら俺は嬉しかったし、無駄な時間ではなかったぜ………今日もお前と遊べて楽しかった」



「先輩………」


「続けたいもんだな。あの【万節棍】みたいに俺達の友情も長く、長く、な」



「………そうっすね! 」



 失敗から生まれることがきっとある。それをあの汚い長い棒は教えてくれた。明日も仕事だから辛いことばっかりだろうけど頑張ろうと思えた午前5時の事だった。



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