☆彡海底の神秘、海底都市 ~ 記憶の残骸(ワスレラレシダイチ) ~ Ⅱ
ここは、深い海の底の底。だけど、まるで太陽光が届いているかの如く、光りに溢れている。
エメラルドグリーンがキラキラと揺らめくその真ん中には、大きな都市が広がっていた。
初めて見たはずの、海の底の都市。なのに、あなたにとってどこか懐かしさを覚える場所…。
『それでは、海底都市に入っていきます。…いつかの、忘れられた記憶が蘇るかもしれませんね』
運転手は意味深長なことを、マイク越しに呟くようにして言うと、入り口に佇む、顔の崩れた苔だらけの大きな女神像の横を通りすぎ、海底都市の中に向けてバスを走らせた。
あなたを乗せたバスが、都市の真ん中を走る。ビルのような謎の建造物が立ち並ぶなか、崩れ倒れているものも幾つかあり、そのすべてのものにびっしりと苔が生えていた。
その建造物の間々には、木々のようなものが伸び、大きいものは、高層ビルより高くたかく伸び育っていた。
そこは地上の、どこかの都会を思わせるような世界。だけど「今の」というより「いつかの未来」という感じの場所。
『こちらの海底都市は別名【人魚の街】と、呼ばれています。まだここが地上にあった頃は、人々のような生命…私やあなたが生きて生活していましたが、海の底に沈んだ現在は、人魚の生活の場になっています』
さらりと。運転手が不思議な話をする。
『人魚が生活している街に、もうそろそろ到着します』
ガタガタと揺れながら、バスが走る。あまりにもバスが普通に走っているから、あなたはつい忘れていたが、ここは海の底。バスは海の中を、当たり前のように走り進めているが、今、普通のバスのように窓でも開けたら、大変なことになるでしょう。
色々な思いを巡らせながらも、心は穏やかなあなた。窓の外を見つめていると…そこには、キラキラとした尾を揺らせながら泳ぐ、人魚たちが窓向こうに見えてきた。
そこはまるで、地上の都会のような賑わい。だけど、そこにいるのは人間ではない。人間のような上半身に、下半身はまるで…魚の尾のようになっている。…人魚だ。
たくさんの人魚が、スクランブル交差点のような場所を歩く…いや、泳いでいる。
この人魚たちがいる場所も緑の苔だらけだが、入り口そばのビル郡の廃れた雰囲気とは違う。
色とりどりの看板や店にそして、色とりどりのキラキラとした人魚たちの尾が海を揺らしていた。
窓向こう。美しい人魚たちに、あなたはきっと見惚れるでしょう。
バスは海の中を走る。
賑やかな人魚たちの住む街を通りすぎ、またビル郡が廃れた場所を走ると─…バスは、海の底の地から離れ、海上に向かって浮かび始めた。
浮かぶように走るバス。
エメラルドグリーンがキラキラと煌めく海から、また暗黒のようにまっくらな海に、飛び込む。
暗くて濃い闇を走り過ぎ、だんだん闇色から濃い青になり、濃い青から透明感のある青になってゆく。
地上に、近づいてきた。
すると。
『次は【静寂の夜空】です。海を抜けて、今度は夜空を昇ります』
運転手がそう言うと─────
────…ざぶんっ!
海面を揺らしそして、水飛沫をキラキラと散らしながら、あなたを乗せたバスは海から飛び出ると。
バスは、夜空を昇りはじめた…