☆彡女神の住まう泉
ガタンッ!ゴトトッ!!
あなたを乗せたバスは、ガタゴトと音を立てて暗い森の中を進む。
ぼんやりと、あなたが窓の外を見ていると。
『次は【女神の住まう泉】です。気まぐれに女神さまがハープを奏でるかもしれませんので、美しい奏でがよく聴けるように、窓の方を開けさせていただきます』
運転手がそう言うと、バスの窓が自動でからりからりと開いてゆく。すると、心地の良い森の澄んだ冷気が、ふわりと窓から入ってくる。
蛍の緑が時折ちらほらと、走るバスの横を過ぎる。
あなたを乗せたバスは、森の奥へ奥へと進む。
すると。
─────トゥルルルン…
静寂の森の奥から、ハープの音が聴こえてきた。
ハープの音の方へと向かうように、バスはあなたを揺らし、進んで行く。
そして。
─────トゥルン…テン…テレレン、ティルルン…
銀に光る小さな泉の傍。体が半透明で、銀色の光を纏う美しい女性が─女神さまが、小さな岩に座り、ハープを奏でていた。
『少しの間、停車します』
運転手はそう言って、女神さまから少し離れたところでバスを停車し、エンジンを切った。
─────ティルル…テン、テレン、テテ…トゥルルルン…
蛍飛び交う静寂の森の中。すうっ…と、木々の隙間から月明かりが女神さまに零れる。月明かりで、さらに銀色にキラキラと煌めく女神さま。美しいという言の葉では足りないほどに、神秘的で神々しい。
女神さまは細くて美しい指先を揺らし、ハープを奏でる。
窓から入ってくる、ほんのり冷たくて心地好い夜風に頬を撫でられながら、暫し、女神さまの夜の調べに傾聴する…
─────トゥル…ルン…──
女神さまのハープの奏が終わると、風がぶわっと森の中を過ぎ、木々を揺らした。風が葉を叩く音がまるで、拍手喝采のように森の中に響く。と。
にこっ。
女神さまがあなたに微笑み、すうっ…と森の空気に溶けるように消えた。
女神さまの座っていた小さな岩には、女神さまの形をした銀色の影が暫くきらきらと煌めき、それも程なくして消えていった。
『発車します』
再び、バスは走り出す。
あなたは鼓膜に残る、女神さまの奏でていたハープの余韻を聴きながら、森を走るバスに揺られる。
暗いくらい森の中を走っていると、正面に淡い光の出口が見えてきた。
『次は、海の底の神秘、海底都市へと…【記憶の残骸】へと向かいます。海に潜りますので、窓を閉めます。手などを挟まないようにご注意ください』
運転手がそう言うと、開いていた窓がパタンパタンと閉じてゆく。
『それでは、海に潜っていきます』
満月の光が夜の暗い海を、白く照らす。
ざぶんっ!
海に零れた満月の光に飛び込むようにして、あなたを乗せたバスは、海の中へと潜った…