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008 誰でもできる鍛冶屋で儲ける方法

「大丈夫だお。点検の価格を上げる方法があるんだお……」


「フトシ〜!いるか〜?」


「……」


フトシの拠点に二人の女の子が入ってくる。一人は虎のような金髪をしている威勢の良い子、もうひとりは黒髪ツインテールで所々赤いハイライトを入れている子だ。


前者は見た目そのままの性格に見えるが、後者は派手なハイライトに反しておとなしそうな性格に見えた。


「蘭ちゃん!ぽぽちゃん!」


七瀬ちゃんが本を読むのをやめて二人の方に走っていき、和気あいあいのおしゃべりタイムが始まった。


二人はおそらく、七瀬ちゃんの友達なのだろう。


「すまんが、お客が来たお。とりあえずこの強化を終わらせるから、見て学んでくれお」


俺は店の隅に移動しフトシが剣を叩いているのを見つめた。


難しそうに感じていたが、叩く場所は3箇所ほどで、そこまで難しそうにも見えなかった。


見ていると規定の場所にかすかなエフェクトが発生するのでそれを見つけて叩いていくだけのように見えた。


「ストップ!右!」


リズミカルに剣を叩いていたフトシの槌が空中で停止した。


真ん中を叩こうとしていたフトシはフォームを変えて右側を叩いた。


「これで完成だお。危なかったお……」


剣に金属が完全に馴染んでいるように見えた。強化に成功したのだろう。


それにしても今の七瀬ちゃんの制止はなんだったんだろうか。


「今のはナナのスキルだお。強化の途中で俺がミスしそうになったら予知スキルでわかるから教えてくれるんだお」


「フトシよぉ、ナナのスキル、このおっさんに教えていいのか〜?」


おっさん…だと……俺はまだ25なので断じておっさんではないんだが……


「このゲームじゃただの初心者だけど、俺もナナも幼馴染なんだお。まぁ俺たち以外に友達もいるわけじゃないから教えても大丈夫だお」


「可哀想なおっさんだな。俺は蘭だ。よろしく」


「……たんぽぽです。ぽぽでいいです」


「ああ…レーヤです。よろしく」


俺はおっさん呼ばわりされて表情筋をピクピクさせている所に、友達がいない宣言までクリティカルヒットしたため、精神的に瀕死の状態だった。


デリカシーのない奴らめ……


鍛冶か?こいつらは参考にならねぇぞ?と蘭ちゃんに肩を叩かれる。


まさか、蘭ちゃんも俺が所持金0Gの住所不定無職予定とは思っていないだろう。


俺には鍛冶しかないというのに……


「まぁ見て分かる通り、ナナのスキルはガチのレアスキルだし、他の人が知ったら可哀想だから口外は禁止だお」


「わかった」


確かに、鍛冶は見た所如何にミスを減らすかという戦いだ。


予知スキルの力でミスに気づけるとなると、色々試行錯誤してる他の鍛冶屋からしたらたまったものじゃない。


可哀想と言うくらいだから、予知と鍛冶のコンボは、鍛冶スキルオンリーでやっている人間から見たらチートのようなものなのだろう。


お前の半分の4枠のスキルなんだけどもとフトシが呟いた。


おいおい俺のスキルと有用性が違いすぎないか?


「前もらったやつは点検完了してるお。強化?点検?どっちだお?」


「点検を頼むぜ。3日後にまた来る。ぽぽも一緒だ」


「了解。二人で2,000,000Gだお」


俺は目ン玉をひん剥いた。二百万Gだと!?


一人当たり1,000,000Gとしても相場の1万倍の値段をふっかけていることになる。


「そう驚くなお、礼哉。さっき単価を上げる方法があるって言ったじゃないかお」


「まぁそもそも二人はトッププレイヤーだから点検自体がクソしんどいんだお。その分でだいたい100倍」


部屋の隅に蘭ちゃんがハンマーを置いた瞬間、ズンッと、とてつもない重量物を地面に置いた振動が建物全体を揺らした。


ぽぽちゃんは背中から100本近くの腕を生やしてそれぞれの手に持っていた武器を手放した。


あまりの光景に俺はフリーズした。


......あれです。


蘭ちゃんもぽぽちゃんも、絶対怒らせちゃダメな人です。


それと同時に彼女たちの点検が短時間で終わるようなものではないことも理解した。


フトシ曰く、普通のプレイヤーと違い、トッププレイヤーたちは2種類の装備セットを交代で使用しているらしい。


「もう100倍はこのガチャだお!」


フトシが自分の腹回りくらいはありそうなほど巨大な福引抽選機を取り出した。


「点検100回分なので二人で200回、回していいお」


蘭ちゃんが、よっしゃと腕まくりしながら取っ手を掴み、高速で回転させ始める。


特注されているのかわからないが、一回転で10個の玉が排出されているようで、またたく間に100個の白玉が排出された。


「かぁ〜〜〜っつかねぇな!クソッ!」


「私も……ダメだった……」


200個の抽選は全て外れたようで、ふたりとも肩を落としている。


「うちの鍛冶屋は俺自体が鍛冶に熟練しているし、ナナのスキルのおかげで他よりも生産・強化の成功率が高いんだお。まぁぶっちゃけ失敗した事自体ないお」


横でフトシが説明を始めた。


「生産・強化の成功率はかなり重要なんだお。例えば、生産に失敗したらもう一度今の武器で生産素材を集め直す必要があるんだお。その一方で鍛冶にかかる費用はポーションとかの回復アイテムなんかと比べると、そんなに高くないんだお」


なにが言いたいかわかるか?と言わんばかりの顔でフトシが俺を見る。


「ぼったくりやすいっていうことだろ。鍛冶の費用が100倍になることよりも、再度素材収集に向かう時間費用、回復アイテムの購入費用のほうが損なんだろう」


ユニークなスキルである〈予知〉と〈鍛冶〉を組み合わせた生産方式は模倣不可能だ。


誰も真似できない、他よりも高確率で成功する鍛冶屋。


攻略速度が重視されるこのゲームにおいて、あまりにも魅力的だ。


フトシの鍛冶屋は長期的に儲かるビジネスとして成立している。


「そのとおり。実はそれ以外にもうちには強みがあるんだお」


「俺たちはこの建物の1階を借りているんだが、2階の店では強力なバフが付与されるパフェを提供しているんだお。」


「バフか。いまいち重要性がわからないんだが……」


「めちゃくちゃ!めちゃくちゃ重要なんだお!バフがあれば普段より難易度が高いクエストをクリアできるから、強い素材が、強い武器が手に入るんだお。強烈に攻略を加速させることができるんだお」


「ここのテナントを借りた特典で、毎月優先入場券が数枚もらえるんだお。この抽選機で当たったらそれをプレゼントしているんだお」


「なるほどなぁ。商売がうまい……んで、二人は200回の抽選に外れたと……」


どんだけ低確率なんだ?と疑問に思ったが、確率が比較的高めだったりしたら、二人の傷口に塩を塗ることになりそうだったので聞くのはやめた。


あの娘達を起こらせたら多分、俺は死ぬ。


触らぬ神に祟りなしだ。


「……お前、めちゃくちゃ稼いでないか?」


俺は恐る恐るフトシに小さな声で聞く。


フトシはスススと俺の隣に来て俺にしか聞こえない声で囁く。


「だいたい利益で月4,000万Gくらいだお……」


10Gが1円だから......月収400万円だと!?


想像を絶する金額に俺は卒倒しそうになった。


エリサラどころの話ではない。


普通のサラリーマンの年収を、一月で稼いでるじゃないか!


「でも俺たちは二人でそれだから実質半分だお。あの二人は各々が俺たちの倍くらい稼いでいると思うお」


あの娘たち、それぞれ月収800万ですか……


ちょちょっと、正確な利益の計算に〈表計算ソフト〉が必要だったりしませんかね?


いや……換金したあとは、現実世界で普通に表計算ソフトが、税理士が使えるじゃないか……


〈表計算ソフト〉、使いみちがねぇなぁ......


俺が独り頭を抱えていると、拠点の入り口に青い髪の女が立っていた。


「見知った顔に、知らない顔が1人ね……」


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