007 鍛冶場見学
七瀬ちゃんが計算を終えて、確率の近似値を俺に確認したあと、3人でフトシのテナントにやって来た。
フトシはかなり稼いでいるプレイヤーだという事は聞いていた。
王都の大通りの中でもかなり立派、かつ広々とした物件を利用している。
まぁ妹の七瀬ちゃんもいるので、俺みたいな狭小テナントだと息が詰まるということもあるだろう。
「んじゃ説明するかお」
炉に火を入れて、剣を差し込む。剣が赤く光り出したところで金床に置く。
フトシがカンッ!カンッ!とリズミカルな音を鳴らしながら煌々と輝く剣を叩いて剣の歪みを治す。
炉からも剣からも熱と光があふれ、熱気のようなものを肌に感じる。 このエフェクトはオンオフも設定できるらしい。
「最初に言っておくけど、規定の動作をすると、スキルによるアシストが働くから、何をやるのかおぼろげにわかってくるお」
「なるほど。やり方さえわかっていれば、誰でも最低限はできるわけだな」
「そうだお。鍛冶スキルでできることは3つ。生産、強化、点検だお」
くるりと振り返ったフトシが槌を掲げて説明を始めた。
「生産は鉱石をこの窯に入れて加熱したらしばらく槌で叩いて鍛えていくお」
「金属をうまく気持ちよくすることができたら、うまいこと武器の形に整っていくんだお」
「意味がわからん。金属を気持ちよくってどういうことだ?」
「現実世界の金属と違って、この金属はある程度の意志がある、生命体のようなものと思ってくれお」
フトシが手の上に鉱石を載せて見せてくれる。
心臓の鼓動のように一定周期でピクッピクッと振動しているのがみてわかった。まぁそういうものなのだろう。
「生産は以上の2工程だお。溶かして叩く。うまく行けば装備になるし、失敗すれば素材が無駄になるお」
「結構しんどいな。成功するかどうかは完全に運なのか?」
「もちろん腕によって可能性が上下するお」
ということは俺が今から鍛冶を始めてもなかなか生産の受注は取れないということだろう。
全員、共通のスキルとして〈鍛冶〉を持っているのだから俺に頼むくらいなら自分で作ればいい。
「強化は加熱した装備に加熱した強化用素材の金属をぶっかけるお。ちょうどいいから今やってたのを見せるお。これはぶっかけた後だお」
フトシは槌を持って台の上で煌々と輝いている長剣に槌を振り下ろしていく。
「なんかうごめいてるな」
「そうだお。武器自体の金属と馴染めないでいる金属たちが馴染む場所を探しているような感じだお。金属が馴染むように動いてるところを叩き潰したり、馴染む場所を作るように武器を叩いたりしていくお」
「うまく行けば武器の性能が上がるんだお。でもうまくいかないと武器がすねて性能が下がるし、強化素材は無駄になるしで面倒だお。これも腕で結果が左右されるお」
「なるほど。ねぇ鍛冶の仕様厳しくない?俺じゃできなくない?」
「それが大丈夫なんだお」
チッチッチッと指をふるフトシ。
異常にうざいリアクションだと思っていたら、リクライニングシートで優雅に難しそうな本を読んでいた七瀬ちゃんも、生ゴミにも向けないような顔をしてフトシを見ていた。
「誰でもできる、失敗はなし。結果も一緒。それが点検だお!やり方はこの砥石で研ぐだけ!」
俺の拠点にもあった気がする。大きく角張ったレンガのような大きさ石だった。
「モンスターを戦って摩耗した武器が点検によって最高のパフォーマンスを取り戻すんだお!」
「1回でどれくらいの時間がかかる?あと、いくらくらいで引き受けるんだ?」
「3分くらい。単価はまぁ100Gくらいだお。価格も高くないし、自分でやるのも面倒だから誰がやってもそこそこ人が来てくれるお」
「100Gじゃ正直結構ビジネスとして厳しくないか?」
自分が4日間の家賃として支払った金額が100,000G。つまり1,000件の点検をこなさなければ赤字になる。
ちなみに1,000件の点検の所要時間は3,000分、50時間。
4日で等分しても1日あたり12時間以上休みなく点検をし続けて、やっと家賃の額になる。
そもそも大通りの鍛冶屋を見ていてもそんなに客が来ていない。つまり12時間店で待機していても、12時間丸々点検をすることはできないということになる。
それは拠点への投資の回収、拠点の更新が不可能であることを意味していた。
あと四日で俺は無職から住所不定無職にグレードアップするらしい。
「大丈夫だお。点検の価格を上げる方法があるんだお……」
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