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005 初めての食事

自分のテナントに入ると、見てわかるこれとわかるような鍛冶道具一式が準備されていた。


「多分、ここで加熱して、このハンマーみたいなので叩くんだろうな」


ハンマーを手に持って感触を確かめる。


あまり手になじまないと感じたが、まぁそういうものなのだろう。


「このVRMMO、スキルの使い方とかそのへんのチュートリアルが一切ないよな」


ハンマーを持って炉の前に座っても何のエフェクトも発生しない。どうやって鍛冶スキルを使うのか検討もつかなかった。


「どうしようもないな……フトシに聞きに行くか」


俺はヘッドギアをくれた友人、もとい悪友のフトシに連絡をとった。


ーーーーーーーーーー


「ハハハッ、まさかチュートリアルを断念したとは思わなかったお」


「笑い事じゃねぇんだよ……マジでしんどかったわ……」


テーブルを挟んだ向かいでデブが腹を揺らして笑っている。


彼の名は伊藤太志、幼馴染であだ名はフトシ。重度の掲示板ヲタクで、独特の喋り方をしている、20年来の友人だ。


「本当に、笑い事じゃないですよ。このゲーム初期投資がめちゃくちゃかかるじゃないですか」


彼女の隣にちょこんと座っているのが伊藤七瀬、文字通り彼の妹である。こちらも10年来の幼馴染……というには少し年が離れているか。


彼女はフトシと同じ遺伝子とは思えない細身の美人、おまけに頭脳も明晰。海外の大学に飛び級で進学することもできたらしいが、今も日本でフトシと暮らしている。


フトシに連絡をとった所、飯でも食べながら話そうと言われ、俺は今レストランに来ていた。


VRMMO初めての食事……なんとフトシのおごり……


正直楽しみでソワソワしている。


手をニギニギしたり、モノを触ったりして、身体の感覚を確認するが、正直これがゲームとは思えない。


異世界に転生したらこんな感じなのか……とか正直思ってしまうくらいだ。


いや、もしかしたら、誘拐でもされて変な場所に連れてこられているんじゃないか……


そう疑ってしまいたくなるくらいに感覚の再現度は高かった。


「まぁそうカッカするもんじゃないお。ちなみにスキル構成はどんな感じなんだお?」


「表計算ソフトと鍛冶……それだけだな」


「え!?マジのマジでそれだけなのかお!?」


〈鍛冶〉は特典というか、プレイヤー全員に与えられているスキルだから、実質的な俺のスキルは〈表計算ソフト〉のみだ。


「通常のスキル枠8個が全部〈表計算ソフト〉になっちまったのかお!?せっかく金が稼げるゲームなのに、縛りプレーとかさすがすぎるお」


「既に有用性が証明されているスキルで5枠くらい埋めておくのが定石なんですけどね」


兄妹の言葉のナイフがぐさぐさと突き刺さる。


こいつら、人をからかう時はここぞとばかりに連携してくるんだよな。


フトシからは事前にアドバイスをもらっていて、強いスキルについてはある程度知識があったのだが、まぁ……全く意味がなかった。


「まぁでも、普通だったらスキル枠を8個も使うスキルっていったらめちゃくちゃ強力なんですけどね」


私の4枠スキルですらかなり強力なのに、と七瀬ちゃんが言う。


普通のプレイヤーはスキル枠をいろんなスキルでバランス良く埋めていくみたいだ。


俺はそもそも〈表計算ソフト〉しか使えないから関係ないんだが。


加えて、俺のスキル枠は〈表計算ソフト〉が8枠分専有している。


これはRenaが俺がスキルのインストールに挑戦して死にかけないように配慮してくれた結果かもしれない。


なので、8枠分の価値がどうのこうのという意見については、まだなんともいえない。


スキル名を言ってもパーティーに入れてもらえないってくらいしかわかってないもんな。


「それにしても、お前に表計算ソフトを与えるってAIはちゃんと仕事してるんだお?」


呆れた顔をしながらフトシがメニュー表を開く。


俺もメニュー表を開いたが、VRMMOなだけあって漫画の世界のような料理がずらりと並んでいた。パラパラと目を通していく。


「栄養成分表まで準備されてるのか」


最後のページに記載されていたメニューごとの炭水化物、脂質、たんぱく質のグラム数の表をぼんやりと俺は眺めた。こういう細かい設定は嫌いじゃない。


「10,000Gのランダムセットを3つ頼むお、ナナ」


「はーい」


返事をした七瀬ちゃんはタイミングを取りながら、注文ボタンをクリックするフリ?を繰り返していた。


「おいフトシ、七瀬ちゃん何やってるんだ?」


「まぁ見てろってことだお」


七瀬ちゃんがボタンを押した瞬間、テーブルが光ったと思ったら大量の料理がテーブルに展開された。


「うわっ!すっげぇなこれ……」


目の前に展開された料理の豪華さに俺は圧倒される。


ゴム人間じゃなきゃ食べられなそうなくらい巨大なマンガ肉、1メートルはあろうかという巨大な魚で作られたアクアパッツァ、チーズが山のように降り積もったシーザーサラダに、ボウリングの球より大きなワイングラスに入ったパンナコッタ……


その他にも様々な料理が展開され、テーブルの上には合計9皿が並んでいた。


「では再会を祝して……」


フトシが水の入ったグラスを掲げた。


「「「乾杯!」」」


グラスをぶつける音が店内に響いた。

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