002 オーダーメイドスキル
ユニークスキル:剣皇
ユニークスキル:ドラゴニックバースト
ユニークスキル:空間掌握
ユニークスキル:スキルコピー
ユニークスキル:アイテムボックス
ユニークスキル:絶氷の矢
……ほえ?
いや、え?
「これ……全部ユニークって書いてありますよね?」
「書いてありますね」
「ユニークって……ユニークってことですよね?」
「排出率……1%のユニークスキルってこと……です……ねぇ……」
ディアナさんと目が合う。
「うおおおお!!!」
俺は『地獄ガチャ』に勝利した事実に腹の底から雄叫びを上げた。
運!圧倒的な運!運が俺を約束された勝利へと導いているッ!!!
このユニークスキルたち!いくら稼げるんだ!?いくらで売れるんだ!?
複数、いや、全部自分で使うっていうのもできちゃうのかな?わかんない!わかんないけど、とりあえず、ユニークだよ!
「こ、こ、これ!これ!どうしたらいいんですかね!」
「手!手!手!手で触ってもらえば、インストールが始まりますよ!」
スキルオーブのインストール。どういうことなんだろうか。
「インストールってことは……!どれか決めてからにしたほうがいいってことですか!?」
ディアナさんが説明のための冷静さを取り戻すべく、深呼吸を数回していた。
なんかかわいい。
「いえまずはインストールです。スキルのインストールをすると、そのスキルでできることが自然と理解できるようになるんです。またインストール後にスキルをモールに出品することで、販売することができます」
「つまり兎にも角にもインストールってことですね!」
せっかくなので、最初は気になるスキルにしよう。定番の〈アイテムボックス〉もいいが……
やっぱり〈スキルコピー〉に心惹かれる自分がいた。
全能のロマンってやっぱりあるよね。
適合度100%って前提があると、もう正直これしかないだろという感じがある。
俺は〈スキルコピー〉のオーブに手を触れた。
いや、正確には触れられなかった。
オーブはパチンと音を立てて、凍ったシャボン玉のようにキラキラと割れて、そのまま消えてしまったのだ。
「は?????」
俺はディアナさんの方を振り向いたが、彼女は真っ青な顔で、口を抑えていた。
えぇ……
彼女はそのまま後ろに倒れてしまった。
「え!?ちょ、ディアナさん!?」
VRMMOだよね!?なんでNPCが倒れるんだよ!?
彼女に駆け寄ろうとすると、天井から、背中から翼が生えた人間がスーッとが降りてきた。
光り輝く彼女の雰囲気は天使みたいなんだけども……
「ディアナさん……死んじゃったんですか?」
俺は恐る恐る降りてきた天使に聞いてみる。
「いえ……面倒なので眠ってもらいました」
「紛らわしいな!オイ!」
「ゲームマスターAIのRenaです。たった今ここで、安全装置が発動したので臨場しました」
俺のツッコミは完全スルーされた。
「安全装置って、ディアナさんが死にかけたってことです?」
「いえ〜......あなたが死にかけたんですよ」
ちょっと意味がわからない……
「なんで僕が死にかけてるんです?」
「スキルインストールで死亡可能性があったので、システムによる強制キャンセルがかかったみたいですね。スキルオーブと相性が悪いんでしょうか……」
「えぇ……でも適合度100%ってどのオーブでも表示されてましたよ?」
「全て100%?そんなバカな……」
Renaは少し考え込むような素振りをしてこちらをまた見た。
「貴方、完全記憶能力者じゃないですか?」
ギクリ。
「スキルインストールって簡単に言うと脳に経験を流し込んでるんですよ。そうして体得できる経験の割合が適合度なんです」
なるほど。例えば料理スキルとかだと、料理人の人の適合度が高くなりそうだ。その人の人生経験で体得できる動作が多いだろうし。
人によって適合度にばらつきがあるのはそういう理由があったのか。
「だから適合度が全て100%ってことは、あなたが流し込まれた経験を全て記憶できるということになっちゃいます」
なんかもう完全にバレてる。
俺は確かに他の人より物覚えが良いらしい。
興味が有る事無い事、文字列も数字も景色も過去に見たことがあるものは全て鮮明に思い出せる。
ちなみに計算も得意だったりする。
「でもスキルインストールって、膨大な情報を短時間に脳に流し込んでるので、全部記憶するなんてことをしたら、脳が焼けちゃいます……」
初耳だ……
「それって……俺はスキルインストールができないってことになりませんか?」
「……そうですね」
俺は膝からふかふかのカーペットに崩れ落ちた。
期待が高まっていただけに反動があまりにも大きい。
「消えたスキルオーブはどうなったんですか?」
「安全装置が発動して消滅しました」
「戻っては?」
「きません」
俺のロマンだった〈スキルコピー〉のオーブは消滅してしまったらしい。
「この5つのユニークスキルは?モールで売ったりできないんですか?」
「モールで売るには一度インストールすることが必要なんです。今の状態は、例えるならペットショップでペットを買って、リードを付けずに放置しているみたいな状態です」
Renaが、森へおかえりと言うと、スキルオーブはふわふわと浮かび上がって消えてしまった。
え?俺のスキル?ユニークスキル達が消えたんだけど?
「俺のガチャ代は……100万円は……」
「楽しそうにガチャまわしてたじゃないですか〜」
俺は今、Renaに翼でつつかれながらツッコまれている。
あ〜......表情筋がピクピクしてきた。
人間、落差があまりに大きいと感情を感じられなくなるらしい。
この瞬間、俺は無職から所持金0円無職にランクアップした。
今俺がここで暴れまわったとして、無事ログアウトできるのかな?
俺は受け止めきれないストレスを発散する方法を考え始める。
「冗談です。可哀想だったので、あなたもこの世界が楽しめるようにスキルを作りに来ました」
「そ、そうなんですか?」
「そうなんです〜」
危ない危ない。
スキルを作ってもらえるのなら作ってもらってから考えよう。
俺は暴れるのをもう少しだけ我慢することにした。
「でもやっぱり最低限の情報のインストールが限界なので……あなたの能力を活用したスキルなら……」
ステータス画面を見ると、〈表計算ソフト〉と表示された。
「できましたね!後もう一個……!」
〈表計算ソフト〉の隣に、〈鍛冶〉が並んだ。
「全てのプレイヤーに付与している〈鍛冶〉スキルをムリヤリ実装してみたんですが、あまり上手には作れないと思います」
スキルが消滅したお詫びなのか知らないが、2つもスキルを付けてもらえた。
〈鍛冶〉は微妙らしいが。
「ありがとうございます……ちなみになんですけど、〈表計算ソフト〉でどうやってモンスターと戦えば『それじゃ、いってらっしゃ~い!』」
俺は床に突如として開いた大穴へ落下していった。
意識が暗転した。