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016 俺なんかやっちゃいました?

「私のスキルも?」


「っ!!!」


俺は言葉に詰まる。バレることはしていないはずだろ!?


そしてカマをかけられていたと気づく。


その場で否定できなかった事自体が答えになってしまっていると気づいたが、時既に遅し。


「へぇ……」


彼女はゆっくりと机から上体を起こし、椅子に腰掛け直した。


いつの間にか、俺は追い詰められる側になってしまっていた......


当然のように、彼女の顔には涙の跡など無かった。


「私のスキルは相手が保有している現金が見えるスキルじゃないんですよ」


「入金予定まで見えてます」


彼女のスキルの一つ、「お財布鑑定士」の効果のことだろうと俺は推測する。


スキルの名前はわかっても効果まではスプシで調べられない。


まぁ名前だけでも効果はある程度推測できていたが......


スキルを見た時は、正直、これほどボッタクリ向きのスキルはないだろと笑ったものだ。


まぁボッタクリだけではない。商売向きでもある。


スキル名で効果がわかりきっていると思って正直少し油断していた。


「現在手元に48万G、それから来年以降、毎月5万Gの収入が予定されていますねぇ……」


「これはすなわち毎月5万円の契約を結び、1年分を一括でもらったということになります!」


彼女は立ち上がってこちらを見た。


目がキラキラと輝いている。というか目がコインになってる……


「あなたはまず間違いなく、スキルを使って60万G近い金を稼ぎ出した!」


「どうやったんです!?ねぇどうやったの?ねぇ?ねぇ?」


彼女は俺の周りをぴょんぴょん回り始めた。


「そこまで教える義理はないだろ……」


これ以上何か言うと、どこまでもつけこまれそうだ。


速いうちに切り捨てるに限る。


「あぁ……そういう事言うんですね……」


彼女の声のトーンが数段低くなった。


「今日、いつもフトシさんと一緒にいる女の子がいなかったなぁ……」


「それがどうした?」


自然な反応をしろ。何も反応するな。さっきと同じようにはいかないぞ……


「七瀬って子だったなぁ。彼女に今日のことバラしちゃおうかなぁ……」


ただ、さっきと違って、今度のは完全に弱みだった。


「フトシさんとお知り合いって言ってましたもんねぇ……仲良さそうに喋っていたなぁ……レーヤさんは七瀬さんとも仲がよろしいのでしょう?」


彼女は勝利を確信した表情で俺を見下ろす。実際それは正しい。


「雑草食べながら、家賃の前借りのお願いに行くしかないか……」


「わかった!教える!教えるから勘弁してくれ……」


「仕方ないですねぇ......そう言うなら聞いてあげましょう」


サーヤは満足げな顔をして俯いているこちらの顔を覗き込んだ。


「ほら、これ見ろ」


俺はスプレッドシートを起動し、周辺の家賃データを表示した。閲覧権限をサーヤに付与する。


「これは〈表計算ソフト〉っていうスキルだ。マス目の中に書かれた情報に様々な処理を行うことができる。この画面では周辺の家賃データを住所と一緒に並べてあって、それを地図上に表示してある」


スプレッドシートを全く見たことがない人間にもわかるように俺は説明していく。


画面を見ると、周辺のマップに濃淡の色がついたものが表示されていた。


そうか。サーヤに適正料金の家賃を支払ったからもう周辺の家賃と比較可能になったのか。


「このグラフは色が濃いほど、家賃が高い。薄ければ安いという感じ。わかる?」


サーヤは食い入るようにシートを見つめていた。目線をグラフから下の数字の羅列に向けた。


「……この地図で比較されているのは坪あたりの家賃ですよね。何をしてここに数字が表示されるようにしたんです?」


非常に鋭い質問だと思った。


やっぱり事業をやってきただけあってサーヤは頭の回転が速い。


「この家賃の数字は別の数字を加工したものだ」


俺は新たに2画面をサーヤの前に表示した。


「このシートの一番左の縦列には周辺の物件の住所一覧が並んでいる。これは俺が全て手入力した」


まぁ手入力といっても地図を見て、頭に全ての物件の住所を思い浮かべて貼り付けただけだ。


かかった時間は数秒程度。


「その右の列に入居者の名前が表示されている。これは左の住所を基に入居者の名前を表示するように操作した結果だ」


「待ってください。そんなことができるんですか?」


その疑問はごもっとも。


HELPページを参照したら、できるって書いてあったんだよね。


「このスキルはそういうことができる。ちなみに、名前をもとに借りている物件の住所を表示することもできる」


彼女はフリーズしている。まぁいいや。


「別のシートで、入居者の名前から、その人物の金銭取引履歴を表示するように操作をする」


「金銭の授受を伴う取引のリストが表示されるから、うまくいじって家賃の取引のみを表示するように操作した」


「家賃の取引が残るのでそれを月額換算するように計算する。特に契約直後なんかは数カ月分一気に支払っていることもあるからな。そして別に取得していた物件の面積で割れば面積あたりの家賃相場として比較が可能になる」


「簡単に言えば今言った通りだ。あとは住所データを組み合わせて並べれば地図上に表示できる」


サーヤは最初フリーズしていたが、徐々に理解が進んで来たようだ。目がコインになっていく。


「60万Gを稼ぐために何をしたか。とある飲食企業に、事業を分析するための情報を提供して対価をもらった。月額5万Gと言ったらひとまず60万G払うと言って小切手をくれたんだ」


「こうやって社長にシートを見れるように設定したわけだ」


歩いてみろと彼女に指示する。


彼女が歩くと画面が彼女について行く。


自分の意志でも画面を動かせると気づくと、彼女はブツブツ言いながら画面を上下左右に動かしていた。


彼女がまたこちらを見た。


「事業を分析するための情報とはなんですか?」


「店舗内の全ての注文データを収集し、店舗別の売上、客数、客単価の表示を表示した。あとはそれをメニュー属性別、時間帯別、顧客の年齢層別なんかで分解、分類して表示した」


「ちなみにデータの更新はリアルタイム」


目の前でサーヤがすげぇ苦いもん食べたみたいな顔をしている。表情豊かだな、この娘。


「そ!」


「そ?」


サーヤが目を見開いてこちらを見て硬直している。


数秒見ていたら、口がまた動き始めた。


「そそそ、そんなの、60万Gで売っていいものじゃないですって!5倍、いや10倍でも全然売れますよ!王国全土の企業が喉から手がでるほど欲しがるレベルのものです!」


「相場の100倍家賃を取ってた女が言うと説得力が違うな」


「ワープが開発されたとはいえ、王国全土から経営のための情報が集まって集計されるまでどこの企業でも最低数日はかかってます!それが即座にこの細かさって……」


俺の返事、普通にガン無視されてる……


「しかも経営者のところまで情報はろくに登ってきません!薄っぺらい報告書を見て経営判断しないといけないのが実体なんです!」


「そもそも経営者が欲しい情報なんて手に入らなくて普通です!それがこんな……このシートの情報なんて、いくら欲しいと思っても手に入れられるものじゃないですよ!?」


「そんな情報が!一瞬で!正確に!届けられるってどれほど革新的かわかってますか!?」


ちょっと言ってみたいセリフがあるんだが……


心の中で俺は呟く。


オレ何かやっちゃいました?


満足してサーヤの方を見ると、サーヤは部屋の中をブツブツ言いながら歩き回っていた。


「で、これからどうやって事業拡大していくんですか?」


俺は言葉に詰まった。


正直とりあえず手元に金が必要だったからやっただけで、今後のことなんて何も考えていなかった。


「こんな金のなる木を持っていながらっ……」


目の前で全身をワナワナ震わせているサーヤは放置して、とりあえず俺は今後、この世界でやりたいことを考えてみる。


戦闘……パーティーには入れそうもないしなぁ……


しばらくはスプシで遊べそうだし、手元に48万Gもある。


食うに困ればその時またスプシを死ぬ気で売り込みに行くって感じだろうか……


あと何かあったかなぁ……


俺はこのゲームでの体験を振り返ってみて一つやりたいことに思い至った。


「パフェっ娘……パフェっ娘と契約したいな。ヴィクトリアさんのパフェみたいなのが毎日食べられたら、楽しそうだなぁ……」


たまたま食べさせてもらえた彼女のパフェを思い出す。人生でパフェを食べたことなどほとんどなかったが、あれは素晴らしい体験だった。


パフェっ娘......いいよなぁ......

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