015 転んでも、ただでは絶対起きません
「あ、あのサーヤさんはお帰りにならないんでしょうか……」
「借金がぁ……まだお金がいるのにぃ……」
すすり泣くような声を彼女は漏らす。1ミリたりとも帰る気配は見せない。
「借金があったのは事実だけど、今月で完済できるでしょ?」
昨日、俺はサーヤの会社の決算情報、サーヤの資産状況などを調べた上で、ヴィクトリアさんの物件でフトシがぼったくられている事に気づいた。
とりあえず、法外な金額の家賃を払い続けているフトシが可哀想なので、フトシに報告。
ついでにそばにいたヴィクトリアさん、フトシの3人でサーヤのぼったくりをどうするか相談したのだ。
その中で聞いたサーヤについての話をまとめると以下のようになる。
実は不動産価格が暴落する数年前にサーヤの父が銀行から借り入れを行い、王都の不動産を購入していた。
その後父が亡くなり、遺産をサーヤが若くして引き継いだ。
商才があったらしく、若いのにうまくやっていたらしい。
ところがワープの開発により王都の不動産価値が暴落。銀行から不動産購入の際の借り入れ返済を強いられ、手持ちの不動産を捨て値でほとんど手放すことになったらしい。
借金がかなり残ってしまい、サーヤは新規に不動産管理事業を始めて、借金を返済していくことにした。
ヴィクトリアさんはサーヤの父に恩があったそうで、サーヤに自分の不動産管理を任せるなどして影から助けていたとのことだ。
あとはサーヤがヴィクトリアさんの物件でフトシから金をふんだくっていたという話につながる。
話し合いの結果、借金も完済できる状況なら、ぼったくりはやめさせようという結論で落ち着いたため、今日は二人に俺のテナントに隠れて話を聞いてもらっていたのだ。
サーヤはまんまと、ヴィクトリアさんをも呆れさせるぼったくりを演じてしまったのだ。
「確かに完済見込みでしたが、手元に1Gも残りませんよぉ……来月までご飯も食べられない……」
「マジで?」
借金を完済しても十分な資産が残っていると思うんだが……
俺はスプシを開いて確認する。サーヤの資産状況を確認し、借金の金額と現金、入金予定の売上などを確認した。
確かに借金は完済可能だった。
しかし、俺は手元の現金のことを考え忘れていた。
俺は入金予定と手持ちの現預金の残高を時系列で集計して表示した。
カレンダー上に、彼女の現金残高予定が表示される。
来月末まで、0Gという数字が並んでいた。
借金完済はできても、手元に現金が残らない……!!!
俺とフトシが先程支払った家賃で、ちょうど明日が返済期限の借金が返済できる。
これで彼女はなんとか借金を返しきったことになる。
そして彼女は自分の資産として小さな物件をひとつ保有している。
俺が物件を借りに行ったオフィスだ。
不動産価格が下落しているとはいえ、300万Gくらいの価値はあるだろう。
しかし、彼女の手元には現金が1Gもなかった。
資産があっても、現金を持っていなければご飯も買えない。
建物はそう簡単に現金化できるはずもない。担保にしてお金を借りるにも時間がかかるだろう……
取引先企業の次の入金は一ヶ月弱先だった。
つまり、俺とフトシからぼったくれなかったことによって彼女は一ヶ月の極貧生活が約束されてしまったのだ。
俺はちょっとだけ申し訳なくなる。
「生活していけないよぉ……金ぇ……お金がないよぅ……」
目の前でサーヤが『金ぇ……お金ぇ……』と鳴きながらすすり泣いている。
泣き声に、蓋をしてきた罪悪感が湧き上がってくる。
目の前で奇妙な鳴き声を出しながら泣いているのは、父を失い借金を背負うも、新規事業を始めては軌道にのせ、どうにか借金完済までこぎつけた苦労人の少女である。
ゴリゴリにぼったくりもしていたが、逆に路頭に迷う寸前まで追い詰められていたために仕方なくそういうことをしたのかもしれない。
やっとのことで借金完済にこぎつけた少女の収入源を奪い、文無しで王都に放り出した血も涙もない人間がここにいるらしい。
あれ?俺、悪役じゃね?悪役になってない?
先程、フトシにド畜生と言われていたことを思い出す。
俺がやったことは客観的に見れば、ぼったくりを上司のような立場の人間に告げ口して叱らせているということだ。
正直、世の中から称賛されるような行為ではない……
俺はサーヤに優しい声色で話しかけてみようとする。
……何を言えばいいんだ……
「そういえば、私の資産状況ってどうやって知ったんですか?」
俺がかける言葉に悩んでいると、不意にサーヤが質問をぶつけてきた。
部屋が静寂で満ちている……
いつの間にか彼女のすすり泣く音も聞こえなくなっていた。
サーヤはテーブルに伏したまま姿勢を変えていない。
だが、なにやら凄まじい圧を彼女から感じる……
「企業秘密っていうのは……」
「うぅ、金ぇ……お金ぇ……今日のご飯は雑草のソテー……」
「あぁわかった。ごめんって。スキル、俺のスキルで取りました!」
彼女が再び泣き始めたので仕方なく俺はスキルのことを話した。
ため息をつきながら両手を挙げて無条件降伏の姿勢をとる。まぁ机に突っ伏している彼女には見えていないだろうが。
「不動産の名義も?」
「そう」
「周辺の家賃相場も?」
「……そうだ」
なんだか、すごく嫌な予感がする……
この女に情報を与えすぎるとろくなことにならないと、俺の脳内センサーが危険信号をかき鳴らしている。
「私のスキルも?」
「っ!!!」
俺は言葉に詰まる。バレることはしていないはずだろ!?
そしてカマをかけられていたと気づく。
その場で否定できなかった事自体が答えになってしまっていると気づいたが、時既に遅し。
「へぇ……」
彼女は机から上体を起こし、椅子に腰掛け直した。
いつの間にか、俺は追い詰められる側になってしまっていた......
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