014 ぎゃふん!
お前が入居しなくても、入居者はいくらでも見つけられるという顔でこちらを見るサーヤ。
対して俺は、〈表計算ソフト〉で手に入れた裏情報で、サーヤを攻めていくことにした。
「そうですか……ところで大通りの鍛冶屋、ヴィクトリア氏のカフェの下にある鍛冶屋です。あそこ、すごく評判がよいですよねぇ」
「……」
サーヤの顔が一瞬、青ざめたように見えた。
このカードは通用しそうだ。
「本当に最高の立地ですよね。家賃とか、いったいいくら払っているんだろう。裕福なプレイヤーがいるもんですよねぇ」
「あ、でもプレイヤーなら不思議だなぁ……あそこのテナント、ヴィクトリア氏に遠慮してパフェっ娘が来ないことで有名らしいじゃないですか」
「フトシさんっていったかな、確かあそこのオーナー、パフェっ娘達が来るのを楽しみにしてたけど……」
「あれれ〜?フトシさん、あんなに楽しみにしていたのに、どうしてパフェっ娘達が来ないテナントに入居したんだろう?」
ね?そう思いませんか?とサーヤの方を見る。
「あれ?フトシさんのこと、ご存じなかったですかね?サーヤさんがお貸ししている物件のはずなんですけど」
サーヤは笑みを浮かべているが、顔は引きつっているし、おまけに真っ青だ。
「もちろん、存じ上げております……そうですね。家賃の方ですが、特別に20万Gまでお値下げさせて頂きたいのですがいかがでしょうか?」
サーヤが人差し指を唇に当ててこちらを見る。
パフェっ娘が来ないことを隠して高額でテナントを貸していたことを、彼女は暗に認めた。
人差し指の含意は、お前の家賃を下げてやるからこの件については口外するな、といったところだろう。
それでも料金は3ヶ月分で60万、俺の手持ちは全額もっていくつもりらしい。
これだけ追い詰められているのに、なかなか立派な根性だ。
全力で叩き潰してやる。
「まぁまぁそう焦らないでください。まだ話は終わってませんよ」
「サーヤさんの会社は不動産の管理をやっているようですが、フトシさんの拠点、僕の拠点も、名義はサーヤさんではないですね」
「なんと名義を調べた所、2拠点とも名義がヴィクトリア氏だったんですよ!世界は狭いなぁ……」
「となると気になりますねぇ。家賃をぼったくったことで生まれた利益ってヴィクトリア氏の元に入ってるんですかねぇ?」
過ごしやすい気温のテナントだ。涼しい風が流れてくる。
そんな場所で、なぜかだらだら汗を流しているサーヤがハンカチを額に当てている。
「彼女が保有している土地で、しかも彼女のカフェの真下のテナントで家賃をぼったくっていたなんて世間に知れたらヴィクトリア氏に迷惑がかかりそうですけどねぇ?」
「まさか……パフェっ娘が住めないからと、低価格でテナントを預けてくれたヴィクトリア氏に秘密でぼったくりを行っていたとか?入居者も地主も両方騙して利益を独占していたとか?」
最後のカードをここでぶつける。実は彼女は2重に儲けていたのだ。
ヴィクトリアさんとフトシの両方からのぼったくり。
彼女は相当な額の利益をあげていた。
物件を預ける際、ヴィクトリアさんは自分のせいでパフェっ娘がやって来づらいこともあって、低価格でテナントを貸した。それだけでなく、パフェの利用チケットもいくつか付属させていた。
実際の所、立地が良かったことと、ヴィクトリアさんのバフがあまりにも強力だったこともあいまって、サーヤはフトシから相場の100倍近い賃料をふんだくっていた。
100倍って、さすがにフトシ気づけよ……と正直思ったがそれはまぁいい。
「10万円……!これ以上は譲れません……」
彼女は悔し涙を流しながら人差し指を一本立てた。
「いい加減にしたらどう?サーヤ」
俺が振り向くと、拠点の奥から二人が顔をだした所だった。
「年頃の女の子にトラウマを植え付けるレーヤ、鬼畜を通り越してド畜生だお」
「ありがとう。いいお灸になるわ」
拠点の奥からフトシとヴィクトリアさんの二人が出てくる。
サーヤの方を見ると、ムンクの叫びのような顔をしていた。
金髪ショートの美少女の面影すら残っていない。
「今月の家賃から相場の価格に戻しなさい」
「ッ……」
「返事は……?」
「……はい……」
サーヤは無言でしばらく食い下がっていたが、ヴィクトリアさんの圧力に負けて返事をした。
「ぼったくりからも足を洗いなさい」
「はい……」
「よし」
ヴィクトリアさんががっくりと肩を落としているサーヤの頭を撫でた。
「迷惑をかけたわ。今日はありがとう。また今度パフェをご馳走するわ」
ヴィクトリアさんは俺に礼を言うと、拠点から去っていった。
「フトシぃ。お前も簡単に騙されてんじゃねぇよ。新規プレイヤーでもないんだからさ」
「俺は仕方ないお。正直ヴィクトリアさんのパフェ券があったせいで家賃がいくらでも採算がとれちゃったんだお」
「まぁそれもパフェっ娘達が王都に来るまでの話だったと思うから……この機に家賃交渉できてよかったお」
サーヤがフトシの契約書を取り出す。
唸りながら涙を流し、手を震わせながら、末尾の0を消しているサーヤ。
なんかこの娘、壮絶な金への執着をみせるなぁ……
「フトシは転居しないのか?」
「もう固定客もついちゃってるし、いいテナントも軒並み埋まってるから諦めるお」
フトシはサラサラと契約書にサインしていく。
「だから、レーヤはいいパフェっ娘と契約して俺にも楽しみを分けてくれお」
お前はヴィクトリアさんがいるだろおおお!と俺は心の中で叫んだ。
「……了解」
契約にサインして、家賃を払うとフトシも帰っていった。
「う゛うぅっ……、金ぇ……金ぇ……」
残ったのは奇妙なうめき声を上げるサーヤだ。
ここに残られても困るんだが……
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