012 心の中には例のノートがある
「うへへへへ……」
60万Gの札束をぎゅっと抱きしめながらニマニマしている。
やっぱり個人の商売でお金を稼ぐっていうのは満足度が高い。
高校なんかで、文化祭の飲食販売をしたことがあるひとはわかるはずだ。
自分の手で加工したもののお礼として直接もらうお金の満足度は非常に高い。
自分もバイトから社員まで色々経験してきたが、これよりも満足できる経験というのはあまりなかったように感じる。
逆に人間という生き物は損をするということが大嫌いだ。
金額の大小に関わらず、割高なお金を払ったという事実は相当にメンタルを破壊する。
まぁ俺だけの話かもしれないが、最初にぼったくられた10万Gが悔しくて悔しくて仕方がない。
あの野郎、絶対ギャフンと言わせてやる……
俺は仇敵であるサーヤの顔を思い浮かべていた。
綺麗な制服に身を包み、それはもう聖女のように微笑みながら、仕事も収入もない俺に拠点を提供してくれたあのサーヤさん……
10万Gで4日間部屋を貸してくれたわけだが、フトシが言うには普通に一月部屋を借りられる金額らしい。
まぁ、既にサーヤの敵認定は完了しているわけだが、一応、住所不定無職全財産10万Gの人間が部屋を借りようとしていたわけだ。
すこし割高な賃料を取られるくらいは我慢しないといけないだろう。
だが、程度というものはある。
そうだな。今から計算するこの家の家賃相場が10万円以下だったら敵認定しよう。
俺はスプレッドシートを開いた。
ロイヤルステーキの案件の際に、データを取得する関数についてはかなり目を通していた。
「周辺拠点の契約者idのリストアップ、契約者のidから取引記録を参照、家賃支払いを抽出、月額に変換、拠点の面積で割って……その他諸々調整して……MAPに反映!」
スプレッドシートはかなりの情報が取得できるが、直接取りたい情報を取れるというわけではない。
そのまま取得できる情報、それに紐付けられている情報というのが決まっていて、それを使ってデータを引っ張ってこないといけないのだ。
今回の場合、周辺の家賃相場を表示したかった。
この物件が割安か、割高かを確認したいというわけだ。
この物件は周囲の物件よりも一回り小さい。
面積でいえば半分くらいだ。
昔は鍛冶に使われていた物件ではなかったのかも知れないなと思った。
この物件を他の物件と比較するためには、面積あたりの家賃に換算して比較しなければならない。
そのため、データの処理を何回か挟んでいたのだ。
スプレッドシート上には近隣のMAPが表示されている。
その上にカラースケールで家賃相場情報を表示した。
家賃が高ければ高いほど、色が赤くなり、安ければほとんど透明になるように設定されている。
あれ?かなり狭い範囲にしたんだが、うまくいかないな。ほとんど透明じゃないか。
俺は疑問に思う。
大通りと裏通りではさすがに家賃が大きく違うだろうと、人通りが少ない場所のみに限定して家賃を表示していた。
一箇所だけが濃く、非常に濃い赤色になっているが、それ以外の場所はほぼ真っ白という地図に笑いがこぼれた。
「なんだぁ〜?なんかこいつ、すげぇぼったくられてんじゃねぇの〜?」
俺はスプシの色が濃い場所を指差しケラケラ笑った。
俺はスプレッドシートを触っているときはテンションが変になってしまう。
まぁ気にしないでくれ。
それはさておき、地図を注視した俺は悲しい事実に気づく。
「やっぱりここで〜〜〜す!」
自分で言いながら目の前が真っ白になった。
まぁ、見ているスプシも真っ白なんだが、俺の拠点以外。
俺はグラフとグラフの元になったデータにざっと目を通す。
へぇ……ここらへんの拠点の家賃相場は月4~5万なのか。坪当たり月7千円くらいか。
一方で、俺の払っている家賃は4日で10万……
一月あたり75万、坪当たり月12万超えェ……
適性家賃は4.2万円くらいか......
ふむふむ……どうやら俺は、マジのマジでぼったくられていたらしい。
ゲームを始めたばかりのプレイヤーから容赦なく相場の20倍近い家賃をぼったくる鬼畜NPC……
あのRenaとかいうAI、ちゃんと仕事してんのか?やばすぎるNPCがいるぞ?現実でもここまでヤバいことする人間いねぇぞ?
俺は深呼吸して心のデ○ノートにサーヤの名前を書き込む。
サーヤ、お前は敵に回してはいけない人間を敵に回したのだ。
絶対に後悔させてやる……
俺は別のスプレッドシートを新規に作り、サーヤの情報を徹底的に調べていくことにした。
契約の更新は明日……
明日、サーヤがにここに姿を見せることになる。
それまでに徹底的に奴の情報を入手・解析して、奴を地獄に落とせるだけの情報を集めるのだ……
スプレッドシートのあらゆる関数を使うことで、サーヤの資産状況、売買記録、直近で彼女と話した人間などなど……目の前に膨大な量のデータを表示していく。
俺は脳に飛び込んでくる大量の情報から彼女の弱点を探し始めた。
■続きが読みたいと思った方はどうか
『評価』【★★★★★】と『ブックマーク』をお願いします!
更新のモチベーションになります...!