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001 これが噂の地獄ガチャ…

〈Hannibal Online〉----人類最初のVRMMOであり、全世界で最大の売上を誇るゲームの一つだ。


人類の歴史を30年は先行していると評されていた全感覚没入型VRMMO。


しかし、100万円を超えるヘッドギアを購入する必要があり、誰もが気軽に遊べるゲームではなかった。


そんな中、とんでもない情報が全世界を駆け巡る。


----稼いだゲーム内通貨がリアルマネーに交換できるようになった。


当時のトッププレイヤーを中心に凄まじい金額を稼ぎ出したという情報が相次いで報告された。


強力なモンスターを倒し、入手したレアアイテムを売却する。


そうして稼いだゲーム内通貨が現実の通貨と交換可能というシンプルな構造だった。


高額な素材はプレイヤーの納品数の増加とともに相場が下がっていく。


早いもの勝ちの攻略レースが始まった。


今も、膨大な数の新規ユーザーが参入しており、広大なオープンワールドの攻略に取り組んでいるーー


ーーーーーーーーーー


俺が友人から聞いた話はこんな感じだ。


ついでに、そいつからヘッドギアをもらってしまったのだ。


俺が大学生のときに、買ったばかりの車をそいつに貸したことがある。


数分後に電柱にぶつかり廃車になったと報告を受けたのだが。


その借りを返すということらしい。


金額的にはちょっと足りない気もするが、まぁよし。


ブラック企業に勤めていた俺は、限界を超えた労働に判断力を喪失していたこともあり、仕事をやめてこのゲームで稼いでみることにした。


軍資金は、社長の胸ぐらを掴んで奪い取った未払い給与と退職金、合わせて100万円。


軍資金と言いながら、全財産でもある。


俺はヘッドギアをかぶって電源をオンにした。


ーーーーーーーーーー


「おぉ、眩しい……って、なんかふかふかしてるな……」


足踏みすると、床に敷かれているカーペットに足が沈み込むような感覚を覚えた。


天井には光り輝く巨大なシャンデリア、目の前には15メートルはあろうかという巨大なガチャ。


手をニギニギしても、自分の手のように感じる。


頭をペタペタ触っても、ヘッドギアがない。


数秒かけて、俺はここがVRMMOの世界なのだと理解した。


「はじめまして」


いつのまにか数メートル先にホテルスタッフのような制服に身を包んだ女性が立っていた。


「本日のスキルビルドを担当致します、ディアナです。よろしくお願いいたします」


目の前の女性がぺこりとお辞儀した。


「レーヤです。よろしくお願いします。ひとつ質問なんですが……ディアナさんはいわゆるNPCなんでしょうか?」


「ふふふっ、NPCでお間違い無いですよ」


彼女が耳をピクピクと揺らしながら微笑んだ。


俺がいきなりこんなことを聞いたのは、彼女の耳がエルフのように長く尖っていたからだ。


いきなりファンタジー感がある人が登場して、俺のテンションもいい感じに高まっている。


「それでは早速スキルビルドの説明を致しましょう」


「スキルの購入方法については既にご存知ですか?」


「あ、はい。『モール』と『ガチャ』の2つですよね」


「そのとおりです。簡単に説明しておきますと、モールは既存のプレイヤーからスキルを購入することができるサービス、ガチャはシステムが生成したスキルを抽選で購入できるサービスになります」


「とりあえず、モールを見てみてもいいですか?適合度の傾向を確認したくて」


「承知しました。モールを展開いたしますね」


彼女がそう言うと目の前に巨大な画面が映し出された。膨大な数のスキルと価格、適合度が並んで表示されている。


このゲームで稼ぐには2つの幸運が必要だ。


一つは『適合度』、もう一つは『ガチャ』だ。


正確には、多くのスキルで高い適合度を持っていて、さらにガチャで強力なスキルを当てることが必要だ。


適合度とは、スキルをどの程度使いこなせるのか、AIが絶対評価で示した数値のことらしい。


ヘッドギアをくれた友人曰く、モールを見て適合度が高いスキルが多ければ、ガチャを回すのがオススメらしい。


逆に低いスキルが多ければ、適合度が高いスキルを選んで購入する方がマシらしい。


適合度が高ければガチャでレアなスキルを狙うチャンスがある。


適合度が低ければ、ガチャにすら挑む価値すらない……


モールで自分が使いやすいスキルを買ったほうが遥かに稼ぎやすいそうだ。


厳しい運ゲーは既に始まっている。


俺は祈りながら、巨大なスクリーンに展開された適合度情報を見る。


「これは……全て100%......全て100%です!」


ディアナさんが映し出された画面を見て、目を見開いている。


見渡す限り表示されているスキルは全て適合度が100%だった。画面を遷移させても、どれも100%。


「や、やった!」


「すごい!すごいです!こんなの私も見たことないですよ!適合度90%以上ですら数えるほどしか見たことないのに、全部100%って!」


「本当ですか!あぁ……よかった......」


俺はディアナさんと手を取り合ってしばらく飛び跳ねていた。本当に、奇跡みたいなことらしい。


適合度99%以下で検索をかけると、一つもスキルが表示されない有様だ。


「この適合度って、どれくらいスキルを使いこなせるかっていう度合いなんですよね?」


「そうです!適合度が高いと最初から達人のようにスキルを使いこなせます……!」


普通にこれだけでも相当な優位性なんじゃないだろうか。


現実で例えるなら、超金持ちの家に生まれて、金髪碧眼、イケメン、身長180cm、イケボ、おならも臭くないってくらいのチートだと思う。


やばい……VRMMOを始めてよかった……


間違いなく流れが来ている。


俺TUEEEが約束された空気。


しかもただのゲームじゃない……このゲーム、稼げるVRMMOなんだよ……


俺にヘッドギアをくれた友人は既にエリサラ、すなわちエリートサラリーマンクラスに稼いでいると言っていた。


年収一千万は超えているのではないだろうか……


俺も、給与未払いブラック社畜からエリサラ年収のMMOゲーマーにクラスアップするときが来たのか……


適合度オール100%の感動を俺は噛み締めた。


そして深呼吸をする。


「引き続きモールをご覧になられますか?」


「いえ、ガチャを、ガチャをお願いします!」


通称、『地獄ガチャ』……1回20万の恐怖のガチャに俺は手を出すことにした。


モールで、他のプレイヤーから購入できるスキルは基本、ベーシックスキルと呼ばれる類のものだ。


強力かつ、圧倒的に稼げると言われているユニークスキルは基本的にガチャでしか手に入らない。


ユニークスキルがあればエリサラ、もしくはそれ以上に稼げる可能性すらある。


そんな強力なスキルを売ってくれる人間なんて、いるはずがない。


ユニークスキルが超強力だという話をしたが、ベーシックスキルにも強力なものは存在する。


しかし、そういうものもモールにはなかなか出回らない。


強力なスキルは......『地獄ガチャ』で手に入れるしかないのだ。




俺はディアナさんとガチャの前に移動した。


「ガチャは20万円で1回、100万円で6回まわして頂くことが可能ですがいかがされますか?」


聞いてはいたが、20万円のガチャと聞いて俺は震えた。


稼ぐためとはいえ、ゲームで20万円のガチャを回したことがある人間などほとんどいないだろう。


俺にヘッドギアをくれた友人もユニークスキルが出るまで数百万つぎ込んだらしい……


ガチャの説明にも書いてあるが、ユニークスキルの排出率は、なんと 1%……


この厳しい排出率がこのガチャの『地獄ガチャ』たる所以だ。


友人のように、数百万で当たるなら運がいい方なのだ。


数千万円の貯金を溶かしたという話も耳にしたことがあるくらいだ。


20万円のガチャなのに正直渋すぎる……


だが、それだけユニークスキルは破格の性能を持っているのだろう。


また、強力なベーシックスキルも一定確率で排出されるのだ。


正直な所、20万円で1回ずつ、メインとして使えるスキルが出るまで回すつもりだったのだが……


適合度がオール100%だったとなると話が変わってくると思う。


軍資金は100万円……適合度が高いことが約束されているなら、ユニークスキルが出る確率を最大限高めたほうがいい……


「100万円で……6回お願いします……!」


俺は事前入金していた全財産、すなわち100万円分のゲーム内通貨をディアナさんに差し出した。


『地獄ガチャ』……俺はお前に全てを賭ける!!!


「承知しました!では、こちらの赤いレバーを一周回してください!」


ディアナさんの目がキラーンと輝く。


目の前にそびえ立つ15メートルはあろうかという巨大なガチャ。


そこから伸びる大きな赤いレバーを俺はぐるりと回した。


すると、ガチャの上部からポンポンポンッと6つのオーブが飛び出し、不規則なルートをたどるレールの上を転がりながらこちらに近づいてくる。


「ミュージック、スタート!」


ディアナさんがそう言うと、いつの間にかガチャの左右でスタンバイしていた黒服スーツの男エルフたちが、ドラムロールを始めた。


いわゆる、『結果発表〜!』の太鼓の連打だ。


腹の底まで響いてくるドラムの振動に、否応なしに興奮が高まった。


こちらにスキルオーブが近づけば、太鼓の音が大きくなり、遠ざかれば小さくなる。


の、脳汁がヤバい……ドバドバ出てるよぉ〜!!!


一回20万円のガチャということもあって演出自体が気持ちいいように工夫されている。


過去に体験したことがないレベルで脳内の快楽物質が分泌されていた。


金の延べ棒が胃の中ででんぐり返しをしているような感覚だ。


シンバルがシャーン!!!と音を鳴らすと、ちょうど眼の前にスキルオーブが6つ並んだ。


あまりの衝撃に脳が揺れて、目がチカチカしている。


我に返ると、隣のディアナさんが目ン玉飛び出そうな顔をしてオーブを見ていた。


出てきたオーブはと……


ユニークスキル:剣皇

ユニークスキル:ドラゴニックバースト

ユニークスキル:空間掌握

ユニークスキル:スキルコピー

ユニークスキル:アイテムボックス

ユニークスキル:絶氷の矢


……ほえ?


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