英雄王、爆誕
リィン女王――改めて“リィン議員”は、民に向けて演説を始めた。
その内容は『共和国の未来』についてだった。この国の周辺に“不穏分子の動き”があるとか、リィン議員は自分の命が狙われていることすら語った。
そうか、本人は知っていたんだな。
「――ですが、その暗殺も失敗に終わりました。今日、暗殺者である“レッドオーク”が倒されたのです。そこにいる少年『ヘンリー』という英雄によって」
いきなり名指しされ、僕はビックリした。……うそ、なんか僕に注目が集まってるし!
「おぉぉぉ!」「あの少年が英雄かあ」「あぁ、噂になっていたよな。この共和国に英雄が誕生するって」「そうだ、プランタ枢機卿も言っていたよ」「それだよ、それ!」「つまり、あの少年が英雄王になるのか」「お~、マジかあ」「レッドオークを倒したって聞いたぞ」「マジィ!? 暗殺者ってレッドオークだったの!」「間違いないよ。オーク共は、人間を屈服させようと襲ってくるからな」
わ~、わ~と大騒ぎ。
とんでもないことになったなあ……ていうか、英雄扱いされちゃってるよ。ヨークの言っていた神託の通りになりつつあるのかなあ。
「ぼ、僕はそんな……ただ、リィン女王様を守りたかっただけです」
「なんて謙虚なんだ!!」「肝が据わってる」「素晴らしい態度だ」「あの少年になら、リィン様を任せていいかもしれん」「未来は少しずつ変わっていっているんだな」「共和国が平和になるなら、いいんじゃないかな」「若者にしては肝が据わっている」「いいねえ、ウチの娘の相手になって欲しい」「英雄様の誕生かあ」
なんだか歓迎ムード。
マジか。
騒ぎに気付いたヨークは、何事かと周囲をキョロキョロ見渡した。
「い、いつの間にか凄い事に! ヘンリーさん、何をしたんですか?」
「オークを倒したからかな」
「な、なるほど。びっくりですよ」
立ち尽くしていると、リィンは僕とヨーク、そしてスイカを手招き。……行くしか、ないよなあ。渋々ながらも女王様の元へ向かう。
大衆五百人規模に見守られ、僕は頭が真っ白になる。こんな規模感は初めてだ。緊張で死んじゃうっ。
「彼がヘンリー。ヨーク共和国の『英雄王』です。それと彼女たちはヨーク様とスイカちゃんです」
「ちょ、ちょっと待ってくれ女王様。なんで俺たちのこと詳しいの!?」
リィンは微笑む。
なんて可愛い。
まるで一輪の花のように可憐。
「実は今朝、プランタ枢機卿から聞いちゃったんです。ヘンリーという方が私を守って下さると。共和国を導いて下さると」
「なっ! プランタか。道理でな」
プランタのヤツ、リィン女王に予め情報を伝えておいたんだ。用意周到というか、先回りされていたとはなあ。
けど、おかげでタイミングはバッチリだったわけだ。