プランタジネット枢機卿
夜のように美しい黒髪。
赤い瞳が僕を見つめていた。
十六歳前後の少女は『プランタジネット』と名乗った。
「あなたが枢機卿?」
「はい、わたしはこの共和国を守護する者。プランタとお呼び下さいまし」
「そ、そんな偉い人を呼び捨てだなんて」
「構いません。それと、ヨーク様。よくぞ戻られました」
プランタは、そうヨークを呼んだ。えっ……様付け? まあ、ヨークは聖女なのだから、もしかしたら立場が違うのかもしれないけど。
「あ、あの……プランタ。怒らないですよね?」
「ええ、怒りません。あとでお尻ペンペン百回ですけどねっ」
「あー! プランタってば、やっぱり怒っているじゃないですかー!」
涙目になって僕の背後に隠れるヨーク。主従関係がよく分からないな。どっちが偉いんだか。でも、まるで家族のような接し方だ。仲がいいのは確かっぽい。
「ヨーク様は勝手に動き、勝手にヘンリー様にお会いしたのでしょう。そして、金貨の能力を授けた」
「うぐっ……。だ、だって、神託があったんですもん」
「妖精王・ヘイスティングスですね。まったく、あの御方には困ったものです。ですが、せかっくこうして戻られたのです。もう共和国に留まるのですよ、ヨーク様」
「お断りします」
「なんですって?」
「わたくしは、ヘンリーさんをお助けする聖女。ヘンリーさんだけの聖女なんです。共和国のことはプランタにお任せしましたから」
ニッコリ笑うヨークは、なんだか投げやりだった。おいおい、いいのかよ。
「ヨーク様……それでは、共和国は潰れてしまいますよ」
「プランタの方が知名度も民からの信頼も抜群でしょう。わたくしなんて、ただのお飾り。それに女王様の勢いもどんどん増していると聞いていますし、実質、プランタと女王様の一騎打ちだと聞きました」
どうやら、近い内に共和国の民主主義として是非でも問うらしい。大丈夫かな。もしかしたら、ランカスター帝国の手が忍び寄っているのか。
「やれやれ、ヨーク様には後でお尻ペンペンです」
「ひ、ひどぉーい! ヘンリーさん、もう帰りましょう!!」
僕の背後で怯えて震えるヨークは、全力で帰りたがっていた。でも、まだ帰るわけにはいかない。
「あの、プランタさん」
「はい、なんでしょう」
「この国に、万能の傷薬とかないかな。他で探したけど、なかなか見つからなくて」
「おや、どうなされたのですか」
経緯を話した。アサシンさんが重症を負って大変なことになっていると。大切な仲間を治療したくて、共和国を頼りにきたと話した。
話を聞いていたプランタは、可愛く微笑む。うわぁ、美人だな。
「分かりました。ヨーク様を保護してもらった礼もありますし」
「そんな、お構いなく。あー…、でも、ヨークのお尻ペンペンんは勘弁してやってください。コイツがいなかったら僕は死んでいたかもしれませんし」
「……なるほど、どうやらヨーク様とは良い関係を築いているようですね」
「ま、まあ……」
小さく溜息を吐くプランタは、背を向けた。
「ヨーク共和国の北に、ジェームズという青年商人がいます。その方なら何か知っているかもしれません」
ジェームズ?
どこかで聞き覚えがあるような――って、そうだ!
ランカスター帝国の前で会った商人だ。アイツかー!