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『ただいま』と『おかえり』

 ヨークを連れ出し、テレポートスクロールを使用。秘密の場所へ向かった。


 久しぶりに屋敷の前に立つ。

 ヨークとスイカと共に。


 ようやく帰ってこれた。

 長い長い旅をしていた気がする。


 あまりにも長い道のり。


 でも、これからが本当のはじまり。スタートライン。そうだ、まだ僕はやりたいことが多い。けれど、ひとまずはお屋敷で休息だ。


 人間、働いてばかりも息が詰まっちゃう。それはギルド職員時代に身に染みて理解していた。あの悪漢ガヘリスにいいように使われていた時代。


 虚無しかなかった過去。


 でも、今は違う。



 ヨークと出会い、金貨バグという能力を手に入れて――それから、スイカを拾った。ネヴィルやリナ、執事のエドワード、メイドのアルマとも出会った。


 それがこの屋敷だ。


 アサシンさんは、どこかへ行っちゃったけど、きっといつかまた会える。そう信じている。



「ヨーク、ただいま。そして、おかえり」

「――はい、ヘンリーさん。おかりなさい。そして、ただいま」



 二人で見つめ合い、スイカを中心にして抱き合った。生きている奇跡を、実感を、喜びを分かち合った。……死に掛けたこともあった。辛い思いをしたこともあった。でも、こうして生きている。


 僕らは生きている。


 ふと気づけば、自然と涙が出ていた。


 僕は……泣いていた。



「僕は……ごめん、ヨーク」

「なぜ泣くのですか? ヘンリーさんは何も悪くないです」

「違うんだ。こうしてまた帰ってこれて嬉しいんだ」

「わたくしもです。もう怖い思いをしたくありません……」

「ああ、これからしばらくは屋敷で住もう」



 ぎゅっと抱き合って、僕はヨークとスイカのぬくもりを感じた。


「ヘ、ヘンリー様。痛いですよぅ」

「すまない、スイカ。でも、本当に嬉しくて」

「あたしも頑張りましたっ」

「君の力は素晴らしかった。これからも、僕の仲間でいてくれるかい」

「はい、あたしはヘンリー様のペットですからね!」

「テイマーとしても精進していくよ」

「はいっ」



 * * *



 屋敷へ入ると、エドワードと遭遇。運んでいた料理を全部ひっくり返して驚いていた。


「ヘ、ヘンリー様!! ヘンリー様ではりませぬか!!」


 驚いてワナワナ震えるエドワード。

 さらに、異常を察知したアルマも現れて、これまた料理を全部ひっくり返して、お皿を割りまくっていた。


「うそー! ヘンリー様、ヘンリー様ではありませんか!!! 帰ってこないので、てっきりオークに食べれちゃったかと」


 酷いなぁ。エドワードはともかく、アルマは僕達を死亡認定かいっ。まあ、随分と屋敷を空けていたし、事実、一週間以上は経っていた。


 エドワードをアルマがブルブル震えている間に、リナも現れた。幸い、リナは目が見えないので反応薄だったけど、僕達の気配を感じると顔色を変えた。


「ヘンリー様? うそ、本当に!?」

「あ、ああ……僕だよ。久しぶりだね、リナ」

「わぁぁ! ヘンリー様、ヘンリー様ではないですか!」


 リナ、君もその反応なのか。

 ぽりぽりと頬を掻いていると、最後にネヴィルも現れた。



「なんだ、騒がしいな――って、うあああああああ!! ヘンリー! どうしてこの屋敷に!! おばけ!? おばけなのかい!?」


「ネヴィルも、僕が死んだと思っていたのかい!?」


「だ、だって一週間以上も姿を見せなかったし……連絡のひとつも寄越さず、何をしていたんだい」


「ガヘリスを止めていたんだよ。それが無事に終わった」

「な、なんだってー!! マジで倒したのか。凄いな、ヘンリー」

「そういうことで、もう奴隷売買もないし、帝国の変な呪いもなくなったよ」


「おぉ、素晴らしい。ヘンリー君は、まさに英雄だよ。礼を言う」



 ネヴィルからそう言われて、僕はようやく自分が凄いことしたんだと実感を得た。でも、今はとにかく体を休めたかった。



「ありがとう、ネヴィル。僕はしばらく休む。農業をしようと思うんだ」

「そうか、そりゃいい。今のところ世界は平和になったしな」



 今のところ?

 変な言い方をするな、ネヴィルは。

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