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ランカスター帝国

 再び要塞門の前。

 門を警備する騎士達が僕の顔を見て、駆けつけてくる。腕を強く掴んできて、こう警告してきた。


「そこのお前。ヘンリーだな? お前はランカスター帝国を『追放』されているだろう。入国は認められない。そのまま進むなら処刑するぞ」


「それじゃ、これで通してくれる?」


 僕は、予め用意してあった金貨を高圧的な騎士にチラつかせた。すると、顔色を変えてビビっていた。



「サマセット金貨! ほ、本物じゃないか!」

「一枚とは言わない。三枚で通してくれない?」


賄賂(わいろ)か。まあいい、このところ低賃金で働かされて……家族を養えなくて不満があったんだ……いいだろう。だが、この先にはゾンビにされてしまう“呪いのトラップ”があるぞ。対策しないで進入を試みれば死ぬ」


「大丈夫。不死属性耐性はあるから」

「……なるほど。では、行くがいい」


 騎士とサムズアップを交わし、僕は通してもらった。他の騎士も何事かと向かってくるけど、僕は賄賂を渡して突き進んだ。

 金貨の価値をあまり下げたくないから、出来れば配りたくはないけど――帝国に入る為の手数料なんてくれてやる。

 それに、金貨増殖バグでいくらでも生成できるから、問題はない。


 ようやく門の前に立てた。


 騎士達はすっかり上機嫌で金貨を眺めていた。もちろん、アレは本物。さすがに偽物とバレた時のリスクが高すぎるからな。


 さてと、あとは突破できるかどうか。


「あ、あの……ヘンリーさん」

「どうした、ヨーク」


「もし、ゾンビになっちゃったらどうします? わたくし、治療スキルとかないですし、もしヘンリーさんの身に何かあったら……怖いです」


「大丈夫だ。俺を――ていうか、ディアナさんを信じろ。彼女はエルフだ」



 そう、純粋なエルフ。

 あんなにエンチャントスキルを持ち合わせているし、只者ではない。実は、凄いエルフなんだろうな。と、僕はディアナさんのイメージを膨らませていたけど、彼女は突然なにもないところで転んだ。


「いったーい……もぉ、どうして!」


 えー…、やっぱり凄くないのかな。

 うわぁ、心配になってきたぞ。


 ゾンビになったら、どうしようとか不安が渦巻き始めた。やばい、心臓もドキドキしてきて……うぅ、気分も悪くなってきた。いやいや、ダメだ。マイナスに考えてはいけない。


「ヨーク、もし僕がゾンビになったら助けてくれ」

「ヘンリーさん不吉なことを言わないで下さいぃぃぃ」


 ダバーと泣きまくるヨーク。しまった、余計に不安にさせちゃった。ええい、ここを突破すればいいんだろう。


 ゾンビになるな、ゾンビになるな、ゾンビになるな! そんな祈りを込めて、僕は一歩を踏み出した。頼む、光属性のアーマーよ。僕を守ってくれ! ヨーク、ディアナさん、スイカ。どこかで活動しているアサシンさん、力を貸してくれっ。


 勇気を出して一歩、また一歩と歩いていく。



「……お!?」



 ランカスター帝国に入った。


 起きない。

 なにも起きなかった。


 僕はゾンビ化しなかった。弾かれることもなかった! これは、成功だ!! やった、やったぞぉ!! 追放の呪いを一時的に克服(こくふく)したんだ!!



「「「やったああああああッ!!」」」



 ヨーク、ディアナさん、スイカも一緒になって喜んでくれた。俺も嬉しくて泣きそうになった。めちゃくちゃ怖かったぁ~!


 門のあたりにいるのは居心地が悪すぎるので、僕は先へ進んだ。……ふぅ、ゾンビにならなくて本当に良かった。


「ディアナさん、君のおかげだよ! 助かった。これでやっと帝国に入れた」

「いえいえ、私の方こそ助かりました。これで安心して薬を届けられます。ヘンリーさん、ヨークちゃん、スイカちゃん、ありがとうございました」


 ディアナさんは、何度も頭を下げた。

 嬉しそうに手を振って帝国の街並みに消えていった。これでもう会うことはないのかなあ。いい子だったから、仲間になって欲しかったな。それに、付与師は貴重な戦力だ。属性が付与できるということは、敵の弱点をつけるということだし。


 惜しいなぁ……。



 また出会えることを祈り、僕はヨークとスイカの方へ向き直った。



「二人とも、ランカスター帝国に辿り着いたぞ!」


「はいっ! ここが帝国なんですね~! 大きくて広くて、建物も巨大ですねー!」


 周囲を見渡すヨークは、感激していた。帝国は初めて訪れたようだな。


「わぁ、帝国って人が多いんですね。スコットよりもいますし、なんだかお祭り騒ぎですね」



 近くでは楽団が耳心地の良い音楽を演奏していた。踊り子もいるし、今日も賑やかだな。そう、いつもこんなものだった。久しぶりに来ると少し新鮮味があるけど――って、そうじゃない。



「観光は後だ。今日はもう日も沈むだろうし、宿屋で一泊だな」

「やったっ。お泊りするんですね!」

「本当は急ぎたいけど、ほら、もう夕日がね」


 空はすっかり茜色に染まっていた。

 このままでは夜になってしまう。

 ガヘリスを探すのは明日だ。


 雑踏(ざっとう)の中を歩いていく。知っている街並みが広がって、僕は少し嬉しいような複雑のような気持ちだった。しかも、勤務していたギルドも近いな。


 ちょうど元職場に差し掛かった時だった。ギルドの裏口から、顔見知りの男二人が現れ、僕の顔に気づいた。


「お、お前、ヘンリー!!」

「なんで帝国にいるんだァ!? 追放されたはずだろ!」


 元同僚のガースとエルヴィスだ。

 ガヘリスの部下でもあり、特に可愛がられている二人。まてよ、この二人ならガヘリスの居場所を知っているかも。

 でも、それよりも、この二人……ギルドの受付嬢をさらっているのか!?


「ガース、エルヴィス、そんなことより何をしている! その女性(ひと)はギルドの受付嬢だぞ!!」


 二人は顔を見合わせ、邪悪に笑って僕の前に立つ。その手にはC級のサバイバルナイフ。そうか、僕に殺意を向けるか。



「ヘンリー、見られたからにはテメェはここで死ね!!」

「どういう関係か知らねぇけど、その美女達もいただくぜ!!」



 なんてヤツ等だ。

 ギルドはもう機能していない。

 ガヘリスは、やりたい放題やっているんだ。腐ってやがる……! こんなヤツ等、許しちゃだめだ。


 ガヘリスのギルドを壊滅させてやる。


 子悪党相手に、金貨投げをするまでもない。僕は、アイテムボックスから『S級フランベルジュ』を取り出した。これでいく――!

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