付与師の少女
「ディアナさん、到着早々で申し訳ない。お爺さんのところへ行くんだよね?」
「はい、一刻も早く薬を届けたいんです。でも、ヘンリーさんにはお世話になりましたし、あの、困ったことがあれば何でもおっしゃって下さい」
それは良かった。
やっぱり、人助けはするものだな。
これで追放の呪いを突破する手掛かりが得らるかも。僕は、さっそく自身が『追放』されている身であること、その呪いによってランカスター帝国に入れないことを説明した。
「――というわけなんだ。呪い耐性か解除のアイテムでもあればいいんだけど。エルフは、そういう状態異常に詳しいって聞いた」
「なるほど。呪いに掛かると『ゾンビ化』してしまうんですね。分かりました、それは『不死属性』です」
不死属性?
アンデッド属性ってことか。
主にゾンビとか亡霊系モンスターがその対象だったか。だけど、高難易度ダンジョンばかりに生息するからなぁ。この周辺ではあんまり遭遇しない。
「その、不死属性ってなんです?」
ハナテマークを頭上に浮かべるヨーク。元ギルド職員である俺もそこまで詳しくはなかった。ディアナさんが説明を続ける。
「いいですか、ヨークさん。世界の基本属性を御存知ですか?」
「えっと……火とか水の?」
「そうです。世界には無、火、水、風、地、光、闇、念、死と九つの属性が存在するんです。不死属性は、その中の『死』相当するものです。ゾンビモンスターが主ですね。それで、この属性なんですが『付与』することも可能なんです。例えば武器とかに」
そうだ。武器に属性付与する『付与師』が存在する。だから、応用すれば武具にも属性は付与可能。あの要塞門にさえも。
そうか、付与師によって『不死属性』が付与されたんだな。
「属性ってそんなにあったんですね。知らなかったです!」
ヨークは、その辺りの情報に疎いようだな。しかし、それで今までよく外の世界を歩き回ってこれたな。僕に会う前は、誰かに守られていたのかな。
「それで、ディアナさん。いい方法がないかな」
「つまり、呪いではなく不死属性耐性を付ければいいのではないですか?」
なるほど!
不死属性耐性か。
100%耐性があれば、ゾンビ化することはないわけか。それ名案だな。よし、となれば不死属性耐性をアップさせるしかないな。
「ありがとう、ディアナさん。うーん、でもどうやってアップさせるか。ヨーク、君は聖女だろ? なにかスキルとかないの?」
「わたくしは、支援魔法のヒールとグロリアしかないんです。ごめんなさい」
「それならいいんだ。無理言って悪い」
「いえ……ヘンリーさんのお役に立てなくて悔しいです」
ちょっと泣きそうになるヨーク。いやいや、気にしすぎだよ。ヨークにはいっぱい助けて貰っているから、いいんだけどね。
う~ん、と腕を組んで思案していると、ディアナさんが手を鳴らした。
「あ! そうでした!」
「? どうした、ディアナさん」
「すっかり忘れていたんですが、私、付与スキルを持っていたんですよー! 武器、防具などに付与できるスキルです」
「ちょ……え!? マジなの!?」
「はい。エンチャントヘルム、エンチャントシールド、エンチャントウェポン、エンチャントアーマー、エンチャントシューズ、エンチャントマント、エンチャントアクセサリーとか」
多すぎィ!!
ディアナさんって、付与師だったのか。ただのふわふわしたエルフじゃなかったんだな。冒険とか向かなさそうに見えるけど。けど、エルフは魔力が高いとも聞くし、不思議な力も扱えるという。なら、ディアナさんが何かの能力が使えても不思議ではない、ということだ。
「ディアナさん、時間がないところ済まないけど……付与を頼める?」
「はい、もちろんいいですよ。だって、ヘンリーさんから金貨をいただいていますし、おかげで薬だって買えたんです。私、本当に嬉しくて……だから、付与します!」
「おぉ! さっそくお願い」
「分かりました。えっと、この場合一番良い部位が『鎧』なので、なにか着てます?」
今の僕の鎧装備は――
【A級タリスマンアーマー】
【詳細】
ヨーク共和国製。丈夫で軽量に作られている為、全ての職業が装備可能。
防御力 +1000。
この『タリスマンアーマー』だ。
これに属性を付与してもらおう。
「アーマーに頼む。ところで、属性は何を?」
「不死に効果的なのは『光』です。なので、光属性を付与しちゃえば不死耐性100%ですよ。では、いきますね……!」
僕は、ディアナさんのスキル『エンチャントアーマー』で【光属性】を付与された。不思議な白い光に包まれ、三日間の間だけ光属性が維持されるようになった。効果の持続時間も長いな!
「ありがとう、ディアナさん。これで僕は帝国へ入れるんだよね」
「はい、間違いないでしょう。そもそも光属性なら、呪いだってヘッチャラのはずですよ~」
本当かなぁ。ちょっと不安だけど、ディアナさんを信じよう。僕はさっそく要塞門を目指した。