神託と情報集め
アサシンさんと別れて随分と時間が経過した。そろそろ例の件を聞いてみようと、草むらに身を預けてのんびりするヨークに、俺は聞いた。
「ヨーク、無理に答えなくていいけど、ひとつ教えてくれ」
「はい、なんでしょう?」
「俺と会う前に何があった。なんで空から落ちてきたんだ?」
「知りたいですか?」
「教えて欲しい。君は、ヨーク共和国の人間だろう。名前だって同じだ。僕に特別な能力をくれたよね。だから聖女なのは納得できるけど」
ヨークは秘密が多い女の子だ。
空から降ってきただけでなく、以前、スコットにあるセント・ポール大聖堂のシスターに絡まれた時には、ヨーク大聖堂の関係者だとか言われていた。でも、異教だとか邪教だとか散々な言われようでもあった。あれが何を意味するのか、ずっと気になっていた。
「わたくしは聖女。それは間違いありません」
だろうな。そうでなければ、こんな金貨を増殖させる能力なんて普通は得られない。そう、聖女の奇跡でもない限り。
「それで、どうして空から?」
「はい、わたくしはヨーク大聖堂で神託を受けたのです」
「神託?」
「そうです。ヘイスティングス様からのお告げです」
その名を聞いて俺は驚いた。
まてまて、ヘイスティングスって、あの『妖精王・ヘイスティングス』の事だよな。どうして、その名前が出てくるんだ。ヨーク共和国は、妖精王を信奉しているのか。
「それで、そのお告げって?」
「ヨーク共和国の“英雄王”が現れると。つまり、勇者のようなものですね」
英雄王? 勇者? まるで伝説みたいじゃないか。この世界にそういう話は、ないわけではないけど、どれも御伽噺。けれど、ヨークはその神託を受けたんだよな。
「まさか、それが僕だって言うんじゃ……」
ヨークは純粋な笑みを浮かべてうなずく。ハッキリと「そうです」と断言してくれた。いやいや、しないでくれよ。元ギルド職員の僕がそんな英雄王だとか……ありえねえ。ステータスだって、まだ中堅クラスにも届いていないし。
「そんな馬鹿な。今はただのE級冒険者だぞ、僕は」
「いいえ、ヘンリーさんは凄い人です。だって、ここまでわたくしを守ってくれていますもん」
ニコッと笑うヨークの笑顔に、俺はもう何も言い返せなかった。さすがに、そんなモンにはなれませんなんて言えなかった。
いや、だけど英雄王ね。
信じられないな。
――それから、ヨークは何も答えなかった。結局、どうやって落ちてきたのか、その謎は教えて貰えなかったけど。でも、僕と出会う理由が『神託』なんて。じゃあ、これは運命なのか。
妖精王・ヘイスティングスとは何者なんだ。
ああ、クソッ。
余計に謎が増えたじゃないか。
答えはいずれ出るのかな。
今悩んでいても仕方ないか。
アサシンさんとスイカを待つ間、僕は気晴らしに通りすがる冒険者からガヘリスについての情報を収集することにした。
しかし、特に有力な情報は得られなかった。さすがにギルド職員の噂なんて、そうはないか。
そんな中、ジェームズという青年商人が通りかかった。爽やかなお兄さんって感じの人だった。どうやら、ランカスター帝国から中立地帯のスコットを目指す道中だったらしい。
商人と言えば、アイテムの売買が可能。何か“呪い”耐性関係のアイテムがないかと伺ってみた。
「呪いですか。う~ん……とりあえず、売買リストを見ます?」
【販売品目】
レッドポーション 200セント
グリーンポーション 700セント
スピードダウンポーション 5000セント
スピードアップポーション 15000セント
C級サバイバルナイフ 14000セント
B級チタンシールド 88500セント
B級頑丈なシューズ 60000セント
S級ネコネコバッジ 720000セント
SSS級バジリスクマント 販売不可
うわぁ、結構するな。さすが帝国だけあって物価が高いのかもしれない。地域によってアイテムの相場も変動するようだし。
SSS級アイテムが販売不可なのが気になるけど。
「呪いに関するアイテムはないようだね」
「すみません、お客様。そもそも、呪い耐性系のアイテムってかなりレアなんですよ。異常耐性系の武具はエルフが作ったり発見するそうなので」
やっぱり、エルフなのか。
せっかくなので『スピードダウンポーション』と『スピードアップポーション』は10個ずつ購入しておいた。
【スピードダウンポーション】
【詳細】
飲んだ場合、攻撃・移動速度を小ダウンする。相手に投げつけ、命中した場合も同様の効果を発揮する。
【スピードアップポーション】
【詳細】
飲んだ場合、攻撃・移動速度を小アップする。相手に投げつけ、命中した場合も同様の効果を発揮する。
これは自分にも敵にも使えるから便利なんだよな。よし、購入したところで――お、あれはスイカじゃないか。ようやく戻ってきたか!