要塞門と恐ろしき呪い
門の前は、帝国騎士が守っている。
十、二十はいるだろうか。
出ていくのは簡単だけど、入るのは難しい。そもそも、僕は『追放』扱いを受けている。呪いだか何だかで入国不可らしいし、果たして普通に入れるのか疑問だけど。
「どうするんだい、ヘンリー」
すっかり体調が戻ったアサシンさんは、要塞門を見つめて言った。
「まずは普通に入ってみよう」
「いや、止めた方がいいよ。ほら、見てみなよ」
門を注視すると、そこには追放処分を受けたらしい青年が騎士に抗議していた。
「なあ、俺をランカスター帝国に戻してくれよ!!」
「ダメだ。貴様はグレイフライヤーズ辺境伯のご令嬢に手を出した重罪人! 処刑されなかっただけマシと思え!!」
「違うんだ、俺は彼女を愛しているんだァ!!」
「黙れ! それ以上近寄ると大監獄行きだぞ」
だけど青年は、騎士の静止を振り切って門へ突撃。他の騎士も異常に気付いて止めようとするけど、それでも突破を試みていた。
青年はついにランカスター帝国に進入しようとしていた。そこまでは異常はなかった。……あれ、何も起きないじゃないか。
呪いなんてなかったのか?
首を傾げていると、それは突然起きた。
青年が帝国に一歩踏み入れた瞬間、彼は弾き飛ばされて一気にこちらまで飛んできた。横を素通りしていって、体を地面に何度も打ちつけていく。やっば……!
かなり遠くまで吹き飛ばされてしまったぞ。しかも、かなりダメージを負ったはず。
そうか、追放された者が国へ入ると、弾き飛ばされる仕組みか。あれが“呪い”の正体ってわけか。僕もああなるわけだな。
「ど、どうしましょう、ヘンリーさん! このままでは、ヘンリーさんもあの人みたいにになってしまいますよ」
「そうだな。おかげでケガせずに済んだけど……なんだかな。とりあえず、あの人を助けてやろう。ヨーク、倒れている彼にヒールを頼む」
「は、はい」
倒れている青年の元へ向かう。
こりゃ、ボロボロだな。
あの一瞬で服はズタズタ、皮膚もボロボロだった。それにしても酷い怪我だな。あんな風に飛ばされるだけで、ここまで大ダメージを食らうのか。なんて呪いだよ。
一刻も早く回復してやらないと、彼は死ぬだろう。
「ヨーク、やってくれ」
「分かりました……!」
ヨークが手を構えた瞬間、俺は違和感を感じた。倒れている青年が急に動き出して、ヨークの手を噛もうとしたからだ。
咄嗟の判断で、俺はヨークを抱きかかえて救出した。
「ヨーク!!」
「きゃ!? い、いきなり何をするんですか、ヘンリーさん」
じたばた暴れるヨーク。
だけど、そんな場合ではない。
「落ち着けって。よく見ろ! 男の顔を!」
「え、男の人の……え!」
唖然ななるヨーク。俺もだよ。さっきの青年は顔が焼けただれ、まるでゾンビのようになっていた。
アサシンさんが「こいつはゾンビ化している! ヘンリー、気を付けろ」と斧を構えた。そう、その通り、青年はゾンビになっていた。
そうか……。
追放は、ただ弾くだけではない。
弾いたものを『ゾンビ』にもする恐ろしい呪いだったのだ。……なんてこった。これは酷過ぎる。けど、倒すしかないのか。
「アサシンさん、彼はさっきまで人間だったんだ。だから……」
「もう彼はゾンビ。モンスター化してしまった。追放の呪いで死んでしまったよ。まあ、ここは私に任せな。これでも暗殺者だからね」
SSS級ブラッドアックスを振りかぶり、元青年ゾンビを粉砕した。呆気ない幕切れだけど、そのまま放置するのも可哀想でもあった。
「すまない、アサシンさん」
「いいさ。それより、これではランカスター帝国に入れないな。ヘンリーがゾンビ化してしまうし」
そう、その通り。
僕は追放者。つまり、呪いによって弾かれ、ゾンビ化してしまう。……くそっ、なんて呪いだ。唇を噛んでいるとヨークが泣いて抱きついてきた。
「ヘンリーさん、怖かったです……」
「お、おう。そうか、怖かったか」
もしヨークが噛まれていたらゾンビになっていたかもしれない。救えて良かった。安心していると、アサシンさんがニヤニヤ笑っていた。
「凄い反応速度だったね、ヘンリー。好きな子を守るためなら必死になるよね」
「か、からかわないでくれよ、アサシンさん!」
「褒めてるんだよ。いや、本当に凄かった。ヨークちゃん、噛まれる寸前だったし」
確かに、危なかった。
あと少し反応が遅れていたら、今頃ヨークは感染してゾンビになっていたかもしれない。ヤツ等はそうやって仲間を増やしていくって聞いた。
でも、呪いから生まれるゾンビか……なんか、キナ臭いな。そこまでする必要があるのか?
とにかく、別の方法を模索しよう。