エルフ族の少女
気持ちの良い朝を迎えた。
モンスターとかに襲われることなく、無事だった。あのスイカの精霊術・ファイアナイトのおかげだな。
今はドラゴンの姿に戻っているスイカの頭を撫で、褒めておいた。
「ありがとう、スイカ」
コクコクとうなずく。
ヨークとアサシンさんは、ポケポケとした俺の前に立っていた。二人とも朝弱すぎだろう。もう今日には帝国に到着するだろうし、しっかりしてくれないとなあ。
「ヨーク、大丈夫?」
「は、はい。わたくし、朝だけは本当にダメダメで。でも、がんばりましゅ」
最後、噛んでるし!
あとは、アサシンさんだけど。
こっちも重症だな。
「……ぐっ、飲み過ぎだ」
昨晩、高級酒のシャンポンを開けていたしな。あれをこんな森で飲むとか、ちょっと凄い。
なんとか歩き出して先を急ぐ。
ランカスター帝国まではあと少し。
半日は掛からないはずだ。
しかし、この森は治安が悪いという情報をギルド職員時代に耳にしていた。その通り、森を抜ける前の場所で事件は発生していた。
「ん? 女の人が襲われているな」
おそらくエルフだろうか。
ひとりの男に言い寄られていた。
エルフの女性は地面へ押し倒され、服を脱がされそうになっていた。ちょ、おい!
「ヘンリーさん、あのエルフの人を助けてあげないと!」
「分かった、ヨークはここに。アサシンさん、ヨークを頼む」
守ってもらうようにお願いすると、アサシンさんは口元を押さえて――
「うえええええええええええ……」
あー、だめだこりゃ。
二日酔いか。
仕方ないので、スイカに指示を出した。
「スイカ、ヨークとアサシンさんを守るんだぞ」
『スンスン(お任せあれ!)』
よぉぉし、となれば俺がエルフさんを助ける。この金貨増殖バグで! とりあえず、威力を押さえるために金貨は一枚とした。
金貨をアイテムボックスから取り出し、握りしめた。投球モーションで俺は――投げた。
爆発的な音をたてながら、金貨は男の頭に直撃。男は木々に激突していった。うまく命中したな。
俺は、エルフさんのところへ。
「大丈夫か、君! って! 君は中立国・スコットにもいたよね!?」
「あ! あの時の……!」
そう、このエルフさんはスコットでも暴漢に襲われていた。その時の男たちは買収したけど、それっきり行方知らずだけど。
「私は、エルフ族のディアナです。その、助けていただきありがとうございます! 嬉しかったですっ」
「いやいや、それほどでもないよ。それで、さっきの男って君を襲おうとしていたんだよね?」
「はい。エルフの国への行き方を聞かれて……でも、答えられないと言うと襲われて。いつもそうなんです……」
いつもか。確かにこのディアナさんは魅力的だな。体が細いのに胸が大きいし、エルフの民族衣装のせいか肌の露出も多い。男は黙っていないだろうな。
それにしても、エルフの国か。幻の存在と言われている『アヴァロン』だったかな。行き方は不明で、エルフ族にしか分からないという。
美女が多いから、行き方を知るために必死になる男冒険者も多いのだとか。きっと、さっきの男もその類だろうな。
とにかく、このディアナさんを放っておけないか。俺は、本物の金貨を三枚を取り出して彼女へあげた。
「これを使うといい」
「き、金貨ですか!?」
「ああ、君を放っておけないし、その金貨を使ってくれ」
「で、ですけど」
「なにか事情があって、こんなところにいるんだろう?」
「は、はい。実は、ランカスター帝国にいる祖父の薬の為に中立国・スコットにいるという腕利きの錬金術師さんを頼ったんです。でも、薬が高くて買えなかったんです」
そうか、それでスコットにいたんだ。というか、その錬金術師ってハンフリーのことでは……なるほどね。祖父の為に。
「それじゃ、金貨を使うといい」
「本当にいいのですか?」
「ああ、早く薬を買ってあげるといいよ」
「ありがとう。本当にありがとうございます。あの、お名前を聞いても……?」
「僕はヘンリーさ。今は、ぷちテイマーさ」
名前を告げ、エルフのディアナと別れた。彼女はスコットへ引き返して行った。しばらく、スイカの護衛もつけたし大丈夫だろう。