仲間を守るために
屋根に向けて金貨を投げると遠距離物理攻撃となり――命中。人影が目の前に落下してきた。
「……ぐふぁぁっ!!」
男だ。
弓を持った強面の若い男。僕と同じくらいの歳だろうか。
金貨投げの威力は抑えたのでダメージはそれほど入っていないけど、男は転がって苦しんでいた。
とりあえず、今はアサシンさんだ。
「ヨーク、アサシンさんを治療できるか?」
「はい、わたくしは治癒魔法のヒールが使えますのでご安心下さい」
おぉ、さすが聖女様だ。
見守っていると、ヨークはアサシンさんの肩にある矢に手をかける。
「ヨ、ヨークちゃん……?」
アサシンさんは不安気にヨークを見つめる。僕もなんか嫌な予感がするんだけど!
「大丈夫です。ちょっと荒療治ですけど!」
ニコッと微笑むヨークは、その瞬間――矢を思いっきり引き抜いた。
「ヒ~~~~ル!!!」
「ぎゃああああああああああああああああああ!!!」
ヒールしながら矢を抜いたぞ、ヨークのヤツ!!
おかげで止血はされていたけど、あんな治療方法で良かったのか? でも、どんどん傷は塞がっていったし、回復もしていた。
「これで大丈夫ですよ、アサシンさん」
「ひ、ひどい……でも、助かったよ、ヨークちゃん」
アサシンさんは、涙をドバドバ流しながらお礼を言っていた。絶対、痛かったやつだ。
まあいいや、それよりもこの怪しい男である。
僕は改めて向き直り、理由を尋ねた。
「お前、何者だ」
「……さあな」
「そうか、とぼける気か。さっき、アサシンさんがやられた分を拷問して返すのもアリだな」
「……ぐっ! い、いいさ! やりたきゃ拷問でも何でもやればいい!」
命を投げ出す覚悟があるのか。
それとも開き直っているだけか。
考えていると、アサシンさんが飛び跳ね、SSS級ブラッドアックスを振るって弓男の右腕を切断していた。
「へ……あぎゃああああああああああッ!!」
ぶしゅーと血が噴き出て、現場は騒然。周囲の一般人が何事かと驚いていた。ていうか、容赦ないなアサシンさん。
「よくも私に矢を!! 傷が残ったらどうしてくれる!」
「腕、腕がああああ……」
あーあ、弓男がパニックだ。
仕方ないのでヨークに止血だけは頼んだ。
「ヨーク、何とかしてくれ」
「わ、わたくし……血はちょっと苦手で」
「そう言わないで頼む」
「し、仕方ないですね」
ヒールで止血をして貰った。
治癒魔法って便利だなあ。
「ヘンリー、この男はガヘリスの雇った新たな暗殺者だ」
「そうなのか、アサシンさん」
「ああ、間違いないよ。恐らく、この私を消しにきたのだろう」
そういう事か。
だからさっき、アサシンさんを殺そうとして。許せんな。怒りに燃えていると弓男は不敵に笑った。
「へっ、へへへ……バレちゃあ仕方ねえな! そうだ、そこの女暗殺者を殺しにきた。ついでに、ヘンリー、お前もな」
「そうか、殺すっ!」
ブチギレたアサシンさんは、今にもブラッドアックスで弓男を殺そうとしていた。だけど、ダメだ。この男は必要だ。
こいつはガヘリスの情報を持っているはず。
少しでも情報を引き出してからボロ雑巾のように捨ててやればいいさ。
「まってくれ、アサシンさん。気が収まらないだろうけど、ここは僕に任せてくれ」
「いや、許せん! 仮にも乙女の肌を傷つけ、穢したのぞ、こいつは!」
アサシンさん、美人だもんなー。肌とかきめ細かくて綺麗だし、そういうの気にするんだな。まあ、大人の女性として当然か。
うんうん、彼女の気持ちを抑え、納得させる為には多少の汚れ仕事は必要か。ああ、そうだ。僕はもうギルド職員ではない。
勇者でもなければ冒険者でもない。
そう、今の僕は『安定』が欲しかった。
ただそれだけだ。
だから。
S級フランベルジュをアイテムボックスから取り出し、そのまま弓男の左手の甲に刺した。
「うぎゃああああああああ!!!」
「アサシンさんをよくも傷つけたな。彼女は僕の大切な仲間だ。いいか、ガヘリスの事を吐かなければ殺す」
――そうだ、僕はずっとひとりぼっちだった。孤独な生活を続け、毎日自分だけの為に、自分を生かすために働き続けた。
でも、これからは違う。
僕は仲間を守るために戦うんだ。
その覚悟を、
今、ここに示す。
「……ひ、ひぃぃいぃ!!」
「次は左腕を失うぞ」
「わ、分かった、分かったから!! 命だけは!!」
「もう暗殺しないな?」
「ああ、もうどうでもいい!! 暗殺なんてしない!! だから!!」
弓男は泣いて喚いた。
これでもう僕達に危害は加えないはず。
ならば次は情報を引き出す。