奇襲攻撃
しばらくしてエドワードがノックをして入ってきた。
「失礼します、ヘンリー様。朝食の準備が整いました」
「分かった。直ぐ食堂へ向かう」
アサシンさんも連れて食堂へ。
すでに椅子にはヨークやリナ、ネヴィルの姿があった。
アルマは紅茶を淹れているな。
「ヘンリー様はこちらの席です」
エドワードに椅子を引いてもらい、僕は着席。テーブルには、アルマが作ったパンケーキ。ダンジョンで取れたての『はちみつ』がたっぷり掛かっている。
「お召し上がりください」
「ありがとう、アルマ」
フォークとナイフを手に取り、食事を進めていく。
まずはパンケーキだ。
一口いただくと……美味い!
ふわふわとしたパンの食感。
そこへ流れ込むようにやってくる『はちみつ』の甘い味。カリカリ、モフモフっとした絶妙な食感がたまらない。
「美味しいです! 頑張った甲斐がありましたねっ」
目をキラキラ輝かせるヨークは、満足気にパンケーキを味わっていた。なんだか小動物のようで可愛いな。
そんな、ほのぼのとした食事が終わり――僕は立ち上がった。
「みんな、聞いてくれ」
全員が僕に振り向く。
こういうのは、あんまり慣れていないんだけど伝えないと。
今日から『ランカスター帝国』へ行かなければならないこと、入る方法を模索しなければならないことなどを全員に共有した。
その中でもリナは心配そうにしていた。
「あの、ヘンリーさん。危険はないんですよね」
「大丈夫さ。僕自身、結構強くなったし、それにヨークやアサシンさんを連れていく。あとスイカもいるし」
「そうですか……でも、ちょっと心配です。その、エドワードかアルマを連れていってください」
「「なッ!?」」
エドワードとアルマが驚く。
そりゃ名指しされてビックリするよな。
「お、お嬢様……しかし」
「そうです。私がいなかったらリナ様の生活が大変ですっ!」
二人とも焦っているな。
そうだな、目の見えないリナにとってサポートしてくれる人がいなくなるのは、ちょっとマズイ。
「大丈夫だ。僕たちで何とかする。ネヴィル、僕は行くよ」
「ああ、何かあったら俺を頼ってくれ」
一旦の別れを告げ、庭へ向かっていく。
ヨークは準備万端。
アサシンさんも大丈夫そうだな。
スイカは俺の肩でのんびり。
よ~し、さっそくテレポートスクロールで街へ戻るか。
* * *
中立地帯・スコットの街に出て歩き出す。
相変わらず、活気があってほのぼのとしているな。街の外を目指して歩いていると、ヨークが足を止めた。こちらへ振り向て瞳をウルウルさせた。
何事!?
「あ、あの……ヘンリーさん」
「ど、どうしたの?」
「大変言い難いのですが……お金を貸して下さい」
「は?」
お金? ヨークが!?
突然の要求に僕は混乱した。
ヨークが今までお金を貸してくれなんて言ったことないし。ていうか、貸すとか貸さないとかの話ではない。
「ダメ、ですか?」
「いいよ、お小遣いくらいなら。それで、いくら欲しいんだ?」
「銀貨1枚でいいです! そんなに食べられないですから!」
「へ……食べる?」
状況を伺っていると、ヨークは出店へすっ飛んでいき――ハッシュドポテトを注文していた。
――って、まさかお腹減っていたのか。
戻ってくるヨークの腕には、大量のハッシュドポテト。それをパクパク幸せそうに食べるヨークさん。
っておいおい、さっきパンケーキ食べたばかりだぞ。
「はふはふっ! おいひい! おいひいですぅ!!」
なんて幸せそうな表情だ。
これを止められるヤツはいない。
アサシンさんでさえ、ちょっと引いてるぞ。
そんな時だった。
突然、矢が飛んできてアサシンさんの肩に命中した。
「――うわぁっ!!」
体勢を崩すアサシンさんは、地面へ倒れた。……な、なんだ! いきなり攻撃を受けたぞ。奇襲攻撃?
誰だ、誰が矢を放った!?
周囲をキョロキョロと見渡す。
すると、建物の上に人影があった。
あそこから攻撃を!
なら、引きずり出してやる。
僕は『金貨増殖バグ』を使い、金貨を投げた――!