女神様の縁結び
メリカの家は、アルタの街外れにある丘の上にポツンと建った一軒家だった。
辺りに家が無いのは、壁に程近いこの場所が、単純に各区画まで距離が遠いからだろう。
「お邪魔します」
ちょっと気まずくてここまでの道中、俺達は何も喋らなかった。
混血による長寿の種族は、実の年齢よりは見た目がそのまま精神に大きく影響する。
しかし、メリカは先祖返りしているとはいえ、人間の血が濃い筈で、つまりなんというか、一人の少女として接するべきなのか、女性として接するべきなのか、正直わからん。
「こちらにどうぞ、今お茶を入れますので」
「ああ、お気遣い無く……ありがとう」
間もなくして、お茶とお茶請けを持ってリビングに現れたメリカは「着替えてきます」とだけ言い残し、私室へ行ってしまった。
気まず〜い!
考えれば考えるほどわからん!
なんでメリカちゃんは俺を自宅に招いたんだ?
もし仮に、一目惚れとかだとしてもここまではしないぞ多分。
「すみません、お待たせしました」
言いながらメリカちゃんはリビングのテーブルに座る俺の対面に座った。
冒険者の装いとは違う部屋着のメリカちゃん。
可愛い、眼福です。
「あの、メリカちゃん?
なんで俺を自宅に招いてくれたんだ?」
「ご迷惑でしたか?」
いや、正直野宿は嫌だったんで。
「迷惑じゃないけど」
「……こんな話、信じて貰えないかも知れませんが」
そう言うと、メリカちゃんは俯いてしまった、顔が赤いのはテーブルの上のランプ型の魔光灯のせいではなさそうだ。
「昨日、夢を見たんです」
「夢?」
「はい、夢の中で女神様が出て来て『明日、貴女の前に貴女を負かすハーフエルフの男が現れる、そのハーフエルフが長い貴女の人生を共に生きる伴侶になる、頑張ってアピールしなさい』って言われて」
「その夢を信じたのかい?」
「夢にしてはハッキリ覚えてましたし、夢の中に現れた女神様の言う通り、セツナさんが現れたので」
女神様やってんねえ!
いやいや無理矢理に過ぎませんか女神様!?
約束なら守りますって!
縁を用意するって言ってたけど、縁どころか何を個人に神託下してんだあの神は!?
恋愛は個人の自由ですよ女神様。
それを強要するのは駄目だと思います。
「ははは、ロマンチストなんだね」
メリカちゃんの人生はメリカちゃんのモノだ。
他人に言われたからって早々に人生の伴侶を決めるのは良くないよ?
「私の事、嫌いですか?」
いや、そう言う事じゃなくてねメリカちゃん。
「嫌いじゃないよ? 甲斐甲斐しい娘はむしろ好ましい。
でもね、ほら、あくまで夢で言われた事じゃないか。
偶然状況が一致しただけでさあ。
まだまだ長い人生もっと好みの男が現れるかもしれないよ?」
「今までの人生で、男性に興味を持ったのはセツナさんだけです」
うわあ、凄い真っ直ぐな目だ。
「私よりも強い人は大勢います。
でも好きになった事はありません」
「まあまあ、まだ知り合って初日だしさ、まずは友達から始めようよ」
まさか女子に言われるんじゃなくて、女子にこの台詞を使う事になるとは。
「分かりました」
良かった、わかってくれたか。
「これからセツナさんに好きになってもらえるように頑張ります」
うーん、微妙にわかってなーい。