ヴィゼルの頼み
転移でギルド前まで移動して、ギルドの扉を開いたが、流石に他の冒険者は朝からクエストに出掛けているのか、いつもに比べると人数は随分まばらだった。
冒険者にも通勤ラッシュがあるのはいつの時代も変わらんなあ。
今日も当たり前のようにヴィゼルが受付けにすわっている。
「ヴィゼル、お前さん、ちゃんとギルマスの仕事してるのか?」
「やだなあセツナ、サブマスみたいな事言わないでくれよ、大丈夫ちゃんとやってるから。
はい、報酬。
え~と、金貨100枚ね」
「おお、ありが……100枚!?」
円換算一千万!?なんで!?
「いやあ魔力の純度が高い魔石だったからねえ。
無傷だったからこの値。
リビングメイルは本来魔石を壊さないと討伐できないからさ、研究素材として最高の代物になったのも大きな要因だね」
「あわわわ」
「ははは、流石に萎縮するよね〜」
いやほんとだよ、こんな大金持って帰るとか、ここが地球だったら家までの帰り道、挙動不審で通報される自信があるわ。
インベントリがあって良かった。
「そういえばセツナ、君達のパーティーはAランク昇級はどうするんだい?」
「いや、そもそも昇級の条件を知らないんだが」
急にどうしたんだヴィゼルのやつ。
Aランクか、昇級に興味がないわけではない。
Aランク以上のダンジョンに行くには昇級しないわけにはいかないし。
「1つは地道にポイントを貯めて、ギルドが指定する魔物を討伐する方式と、もう1つは王都で開かれるある条件を満たしたパーティー達が参加出来る闘技大会に優勝するというものがあるね」
魔物を討伐するというのは昔からある方式だな。
しかし、もう1つの闘技大会というのは知らない。
ここ200年で新しく出来たルールって事なのかな?
「ある条件ってなにさ」
「君達が受けた先行調査クエスト、それと同じ類のクエストを初見でクリアしたパーティー。
特に、ギルドが正式にBランク以上と認めたダンジョンをクリアしたパーティーというのが参加条件だよ」
つまりは出場するのはBランク冒険者の中でも手練れ中の手練れと言うことか。
う〜む、パーティーの事を俺一人で決めるわけにはいかないしなあ。
「アルタのギルドマスターとしては、君達に是非出て欲しいんだけどねえ」
「なんで……いや待て、理由を言ってやるよ。
アルタからAランク冒険者のパーティーが輩出されれば、この街はさらに冒険者の流入が増える。
俺達もここでAランクにってな。
それで武具屋、飲食店、宿屋が潤えば、この街はもっと潤う。
客寄せパンダになって欲しい、ってとこだろ」
「ご明察。
まあ後は俺にはAランク冒険者の友達がいるんだぞって、子供に自慢したいっていうのがあるかな」
「この街のギルドマスターがなに言ってんだか」
正直な奴だ。
普通なら誤魔化して良いように言いくるめるもんだろうに。
友達か、そうだな友達の願いなら聴いてやっても良いかもなあ。
でも――。
「返事はちょっと待ってくれ。
パーティー全員の意見を聞きたい」
「分かった、まあでも無理強いはしたくないからさ。
嫌だったら断ってくれても良いよ」




