戦利品
「セツナさん、ごめんなさい、私達、何も、何も出来ませんでした」
駆け寄って来たメリカちゃんが涙を溜めながら抱き着いて来た。
謝る事なんて何も無いんだけどねえ、あのリビングメイル自体がこのダンジョン最大の罠だったのだから。
「いや、俺の方こそごめんな。
皆で戦っても勝てたのに、1人飛び出しちゃって」
嘘では無い、別に俺1人で戦わずとも、4人でしっかり役割を分担し、連携が取れていれば、ステータスに制限を掛けた状態でも十分に勝てた筈なのだ。
「まあ、事前情報無しで戦って生きてる。
今はそれで良いと思うけどなあ」
「うう、私がもっと強かったら」
「そんな事言ったら、私なんてほんとに何もしてないわよ」
ユイリちゃんとリリルちゃんも落ち込んでいる、う〜む、話題を変えねば。
「まあまあ、皆、それよりせっかく頑張ったんだし、早速戦利品を頂こうよ」
ダンジョンに現れる敵は地上の敵と違い、死体が残らない。
リビングメイルも地上で撃破したならば、鎧が丸々残るが、ダンジョンでは魔石以外の全てが灰になるのだ。
灰とは言うが、魔力の残り滓が灰に見えるところから皆、灰といつからか呼ぶようになっていたと記憶している。
しかし死体が残らないからといって戦利品がないでは誰もダンジョンを訪れない。
とくに強敵であるボスになど、絶対挑まないだろう。
なので、ダンジョンという魔物はしっかり戦利品を用意している。
俺達の戦利品は、リビングメイルが灰になって消えた場所に出現した装飾が施された宝箱が中に入っていた。
特に目を引いたのは、見た目には先程まで戦っていたリビングメイルの鎧に似たライトアーマーだ。
装飾が似ているが、色が黒ではなく白で、セット装備だろうか、スカートアーマーも付属していた。
「え、わ、私にですか?」
「うん、これはメリカちゃんが装備してよ。
どう見ても女の子向けだし」
俺が装備しても、ただの変態だわ。
「後は、ハルバードと指輪か」
「おお、格好良い武器だねえ」
ハルバードか、ユイリちゃんの剣の癖から見ると、ハルバードは適してると思うが、タンク役がいなくなるんだよなあ。
いや、タンク役は俺がやって、ユイリちゃんとメリカちゃんにアタッカーをやってもらうか。
「このハルバード、ユイリちゃんが使ってくれないか?」
「え、私? タンク役はどうするの?」
「俺が最前線に立つよ」
「でも私、アタッカーした事ない」
「ユイリさん、私が鍛錬お付き合いします、一緒に頑張って強くなりましょう」
「メリカちゃん、私ちゃんとアタッカー出来るかな」
正直な話し、絶対大丈夫だと思う。
「俺も協力するからさ。
皆で強くなろうな」
「が、頑張るよ!」
さて、最後の指輪だが、これは――。
「この指輪、何か効果が付与されているのかしら、微量の魔力を感じるわ。
鑑定出来れば良いけど、帰ってから鑑定屋に持って行きましょう」
ん?鑑定スキルは皆持ってないのか。
なら俺が鑑定しよう。
え〜と、付属効果、魔法使用時の魔力使用量10%軽減。
お、魔法使いには嬉しい効果だ。
リリルちゃん行きだな。
「魔法使用時の魔力使用量10%軽減だってさ、これはリリルちゃんにあげる」
「鑑定したの? 鑑定スキルって専門職じゃ――。
いや、セツナ君なら何でも出来そうだものね。
考えるだけ無駄かなあ」
ふむ、確かに大概の事は出来るな。
まあでも今は言わないけど。
「リリルちゃん手、出して」
素直に出してきたリリルちゃんの手をとって入る指に戦利品の指輪を嵌めた。
左の薬指に。
地球なら結婚指輪の場所だけど、この世界では問題なし!
この世界での婚約や結婚の証は腕輪なのだ。
「指輪くれるのは良いけど、意味分かってて薬指に嵌めたの?」
「もちろんだよ」
知ってますとも、薬指に指輪を嵌めるのはこの世界では友愛の証。
「まさかセツナ君に求婚されるなんて思わなかったわ。
メリカちゃんにも渡して無いんじゃない? 婚約指輪」
あるぇえ?
なんでえ?
200年前は違かったよねえ?
いつから? いつから地球と同じ習慣になったの?
ヤバいね。
指輪を眺めてリリルちゃんがうっとりした表情を浮かべている。
頬も赤い。
いや、知らなかった、とは言えなくなったわ。
あ、ああ、メリカちゃんがさっきとは違う意味で泣きそう、どうしよう。
「メ、メリカちゃんには俺が選んだ指輪を贈るつもりだったんだよ。
今回の報酬で余裕も出来るし、一緒に買いに行こうね」
「はい!」
あ、良かった笑ってくれた。
「ねえセツナ君私は? 調査終わったら告白してくれるんだよね?」
「いや、ここムード無いじゃん」
「嫌だ嫌だ! 二人だけズルい! 私とも付き合って! 恋人になってよ!」
ズルいってなんだズルいって。
ああ、こんなつもりではなかったのに。
「分かった。
ユイリちゃん、いや、ユイリ。
俺と付き合ってくれ。
ただし、付き合うからには、恋人になるからには結婚前提だ、それでも良いか!」
「やったあ! 4人で幸せになろうね!」
「良かったですねユイリさん」
「ありがとうメリカちゃん。
いや、これから先、私達は家族になるんだから、メリカって呼ぶね!
私の事も、もちろんユイリって呼んでね」
「わ、私にはハードルが高いです」
「だめよメリカ、家族になるのに敬称なんていらないでしょう?」
「う、あ、はい。
リリル……さん」
「ん?」
「リ、リリル」
ああ、メリカちゃんに名前を呼ばれたリリルちゃんが満足そうに微笑んでいる。
嫌では無い、寧ろ俺を好きになってくれたのは嬉しい。
でもね、何も準備できてないのよ。
とりあえず、アルタの街に帰ろう。
調査の報告して報酬貰って、全部それからだ。
あれ?
俺の分の戦利品無かったな。
まあ良いか、婚約者が増えた事が最大の報酬と言う事にしておこう。




