登録試験Ⅱ
「次の人、どうぞ」
あっと言う間に、と言う言葉があるが。
なるほど、これは凄い子もいたものだ。
俺以外の12名の登録志願者が成すすべもなく倒れ伏した。
試験がつつがなく開始された正午ちょうど。
試験会場に現れた指導員は年端もいかない少女だった。
「個人でも多勢でも私は構いません、何時でも掛かってきてください」
そう言いながら黒髪ショートの少女は剣の鞘で土の地面に一本の線を引いていく。
「今日こそ合格させてもらうぜメリカちゃん」
あの筋骨隆々の大男がそう言って地面の線を超えた。
その瞬間、男は吹き飛び俺の横をゴロゴロ転がっていった。
「ロッズは今回も駄目だったか、幸せそうな顔で倒れやがって」
筋骨隆々の大男はロッズと言うのか。
相手に詳しかったから常連なのかな。
「今日こそメリカちゃんに触って冒険者になるぜ!
行くぞ皆!!」
ロッズと一緒にいた二人の声を皮切りに参加者が次々とメリカと呼ばれた少女に向かって行く。
こいつら皆常連かい。
少女に大の大人が触る、確かに冒険ではあるかもなあ。
でもまあ、結果は。
「こ、今回も誰一人触ることすら、無念」
気絶した者もいるな。
一方でメリカという少女の方はたいしたモノだ、一切息を乱していない。
「アナタは初めて見る顔ですね、私の試験は簡単です。
あなたの手が私の体の何処かに微かにでも触れれば合格とします。
武器の使用も可能です」
皆触りにいってたのは試験だったからか、すまん、変な趣味の集団なのかと思っちまった。
いや、幸せそうに倒れているロッズは本当にヘンタ……まあ良いや、趣味趣向は人それぞれだ。
「皆無手だったようだし、俺も無手でいくよ」
「構いません、いつでもどうぞ」
鞘から剣を抜かずに構えるメリカ。
呆れたように溜息を吐かれたが、俺も皆と同じに思われたと言うことだろう。
このお嬢さんに冒険者志望の一般人が勝てる道理はない。
それこそ触れることすら出来ないだろう。
ロッズが俺に運が悪いといっていたが。
まあ、問題はない。
「!?」
おっ? 気配察知も鋭い。
まだ構えていないとはいえ、俺が行く気になったのを察知したか。
ちょっと距離を取るために後ろに跳んだなお嬢さん。
じゃあ着地する前に距離を、詰める。
「速い!」
焦ってる焦ってる。
まあ一般人の人間の速度ではないしなあ。
さて――
「っく!」
お、鞘で防ぐかね。
伸ばした手が額に触れそうだったけど、惜しかったなあ。
そしてこれがどうやらお嬢さんを本気にさせたようだ。
鞘から剣を抜いてしまった。
観たところ刃引きはしているようだが。
「てやぁあ!!」
俺の眼前に迫ったお嬢さんの逆袈裟切り上げを、今度は俺が後ろに跳んで避ける。
この一撃を避けられる事も想定外だったようで、目を見開いている顔は驚愕そのものだ。
「まだです!」
切り上げた体勢から再びお嬢さんが飛び込んできた。
大上段からの振り下ろし。
選択は悪くない。
俺が最初に彼女にした事と同じだ、着地直後の不安定な体勢を狙うのは常套手段だと思う。
が、ソレは俺の狙い目だ。
迫りくる剣先を魔力を纏わせた拳で弾いてみせ、俺は彼女の眼前に拳を突き出し、デコピンをお見舞いした。
眼前に迫った拳に対して目を瞑らないとは、本当に大したお嬢さんだ。
「わ、私の……負け、です」
「ありがとうお嬢さん。
良い立ち合いだったよ」