ダンジョンへ行こうⅡ
メリカちゃんの家からギルドに向かい、受け付けにいたヴィゼルから支給品の食料、回復ポーション、魔力回復ポーション、テント、寝袋などを貰ってそれを全部インベントリに入れる。
「それはギルドが支給している簡易の物だから、テントや寝袋は別で買ったほうが快適だよ。
じゃあクエスト頑張って、無理はしないでね」
「ありがとう、行ってくる」
支給品を受け取った俺達は昨日と同じく、ギルドの真正面の大通りを南に向かい、馬車乗り場に向かった。
どうやら今回は同乗者がいないようだ。
俺達4人で貸し切り状態だから今回は広く座れるなあ。
そう思っていたのだが。
メリカちゃんの横に座ったら反対側にユイリちゃんが座ってきた。
メリカちゃん、俺、ユイリちゃんの順番に座り、対面にリリルちゃんが座っている状態だ。
「あの、ユイリちゃん、狭くない?」
「狭くないよ」
「あ、そう?」
絶対狭いと思うんだけどなあ。
発車する馬車の振動が伝わって来て、ガラガラと車輪の音が響く。
道中一度休憩を挟むらしいので昨日よりは遥かに遠い場所でのクエストになる。
この度の転生では初めての遠出だ。
「メリカちゃんはどんな魔物が嫌い?」
「嫌いな魔物ですか? そうですね、あえて言うならアンデッド系でしょうか」
「あはは、メリカちゃんもやっぱりアンデッド苦手なんだあ」
俺を挟んでトークが始まった。
場所変わった方が良いか?
そう思って「場所変わろうか?」って聞いたら両方から腕を掴まれて「駄目です!」って怒られた。
「セツナさんは嫌いな魔物とかいますか」
「俺は、虫が嫌いだ」
「それも分かる! あいつら全般気持ち悪いよね!」
もう本当に虫嫌いなんです、あの異形、感情が一切感じられない複眼、うじゃうじゃ生えてる足。
カブトムシとかは好きだったんだけどなあ。
似てる黒いアイツは見ただけで殺意が湧くくらいには嫌いだ。
何が嫌いって、こっちの世界にもアレに似た虫がいる事。
昔、不意に現れたアレに対して魔法を撃って家に穴開けたなあ。
「蜘蛛型とか怖いよね」
「たまにエラく強い個体がいるものね」
蜘蛛型、中にはスライムと同じく魔王クラスの強さに進化する個体もいるヤバい魔物だ。
この世界にもいるかもしれないなあ。
雑談が弾む馬車の荷台。
俺を挟んで会話するメリカちゃんとユイリちゃんの胸の感触が腕に伝わってくる。
平常心平常心だ。
揺れる馬車は俺達を乗せて進む。
太陽が真上を少し越えた辺りで御者さんが「あの丘の辺りで休憩しましょうか」と言った。
御者さんの話だと到着は夕刻になるとの事だ。
「支給品の食料の量多くないか?」
「ダンジョンの深さがわかりませんからね」
「数日潜る可能性もあるからこれくらいないと!」
丘の上で昼食を食べながら話しをしていると、前世で冒険者をしていた事を思い出すなあ。
以前もこうして仲間たちと一緒に――
「あのセツナさん、大丈夫ですか?」
「え?」
「なんだかボーッとしてて、その……なんだか寂しそうに見えたので」
「そ、そうかな? ごめんね、考え事してて」
いかんいかん、女の子に心配されるとは。
寂しそうか。
まあ確かに寂しいな、俺は何度も生まれ変わっているのに。
その度に見知った奴はいなくなってて、たまに出会えても死の間際だったりしたからなあ。
別れと出会いを俺はあと何回繰り返すんだろうな。
「セツナ君!」
「ふが!」
ユイリちゃんに顔を手で挟まれた。
「また泣きそうな顔になってるよ?大丈夫?」
「ああごめん、ごめんな」
昔は昔、今は今だ。
楽しまないと、損だな。




