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熊の元へ

 ギルドで受付けを済ませ、さあクエスト開始だ!

 と、意気込み、支給品の回復ポーションを貰って、用意された現地までの移送用馬車に俺、メリカちゃん、ユイリちゃん、リリルちゃんの順番で乗り込んだわけだが。

 その馬車に先客のパーティーがすでに乗り込んでいた。


 男性3人の屈強そうなパーティーだ。

 最初に俺が乗ったので「あ、こんにちは。同乗させてもらうパーティーです」と、挨拶をしたんですよ。


 いや、最初はね「お、スーパールーキーじゃねえか、よろしくな!」みたいな感じでね、俺がメリカちゃんに勝った事や、グレートボアを持ち込んだ事を耳にしたであろう冒険者のおじさんが、気さくに応えてくれて、ああ良い人そうだなあって思ったんですけどねえ。


 メリカちゃんが乗ってきた時は、まだ驚いた表情を浮かべていただけのおじさん達は、ユイリちゃんに続いてリリルちゃんが席に座った時には俺の方に殺意の視線を向けてきた。


 別に俺は悪くない、悪くないよね?

 

 「そう言えばさ、メリカちゃんって、ショートソードだったのになんで大剣にしたの?」


 「セツナさんが教えてくれたんです、私の癖を見抜いて大剣の方があってるって」


 「へえ。

 私もちょっと見てもらおうかなあ」


 ニコニコと盛り上がってるとこ悪いんだけどね2人とも。

 ちょっとあの、ほら他に人もいるし、ちょっと静かにだねえ?


 「あっ、これも聞きたかったんだけどさ。

 メリカちゃんとセツナさんって何が切っ掛けで付き合い始めたの?」


 「わ、私の……私の一目惚れ……みたいな感じで」


 コラァ! 

 狭い馬車の荷台で恋バナしないの!

 ああ、おじさん達の視線が、視線が痛い。

 

 「では、出発しますねえ」


 御者さんの言葉に「はぁい」とユイリちゃんが答えたので、2人の話に一旦待てが掛かる事になった。

 ありがとう御者さん。


 「セツナさんって魔法も使えるんだってね。

 どんな魔法を使うのかしら、教えて欲しいなあ、手取り足取り」


 リリルちゃん、状況分かって言ってるな君。


 「ま、魔法は全属性使えるよ、機会があれば教える」


 「良いなあメリカちゃん、素敵な彼氏がいて、私にも分けて欲しいなあ」


 「分けて……う、上ですか、下ですか」


 リリルちゃんの茶化しに、律儀にメリカちゃん応えてあげてるけど、それ俺が真っ二つになってるな。

 

 「じ、冗談です」


 「あはは、メリカちゃん面白いね!」


 ああ、恐らくこれからクエストに赴くのでしょう先輩冒険者のパーティーの御三方。

 すみません、もう怒りか羨望かよく分からない表情で此方を見てますが、どうかメンタルを保ってクエストを完遂して下さい。


 「セツナさん、クエスト頑張りましょうね」


 「あ、ああ、そうだね頑張ろうね」


 遂におじさん3人パーティーの一人が俯いてしまった。

 か細い声で「羨ましいなあおい」と聞こえたが、聞かなかった事にしよう。


 しばらく走った馬車は俺達の目的地である南の森近くの道で止まり、俺達を降ろすと再び走り出した。

 荷台がお通夜の様相を呈している。

 おじさん達、生きろ。


 「さあ行くか、熊退治だ」


 「依頼書によれば目撃情報があったのは、かなり奥の方みたいですね」


 敵対してるわけではないから気配感知には引っ掛からないか、探知精度をあげるか?

 いや、せっかくのパーティーでのクエストだ、ここは先輩方のお手並み拝見といくか。


 「盾持ちの私が先行するね!」


 「布陣は、タンカーのユイリを始点に1.2.1のひし形陣形で行きましょう」


 先頭がユイリちゃんで俺とメリカちゃんで左右の警戒、最後尾に魔法使いのリリルちゃんを置いて、4人で行える陣形の中では安定した布陣だと思う。

 

 森に入ってしばらく歩いた。

 しかし、未だに気配は無し。

 

 「あ、木が折れてる。

 となれば〜、あった、鎧岩熊の毛と装甲の破片」


 良い観察眼だ。

 確かに痕跡が森の奥に続いている。

 木を折るのは鎧岩熊の縄張りを主張する行為だったと記憶している。

 熊の元へ辿り着くのは時間の問題だな。

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