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就寝前の1幕

 「私が寝てる間にそんな事が――」


 騎士達を追い払った後、俺が夕食の準備をしているとメリカちゃんが目を覚ましてリビングに来たので事の顛末だけ伝えた。

 食料入れに野菜と保冷庫に豚肉があったので今日は野菜炒めです。

 勝手に材料使ってごめんね。


 「貴族がなんで私なんか」

 

 おや、メリカちゃんに心当たりがない?

 会ったことすらないってんなら、コレは本格的に貴族の豚肉が、あいや、豚野郎が一方的にメリカちゃんの事を狙ってる感じか?

 もしそうなら救いようが無い。

 救うつもりもないが。

 

 「何かあっても俺がどうにかするよ。

 元より根無し草だし、貴族だろうが王族だろうが知ったこっちゃねえからな。

 それより夕食、食べるだろ?

 食べて寝て明日に備えよう、いきなりクエストで新しい武器を試すわけにもいかないしな」


 「は、はい。

 そうですね、セツナさんと2人なら怖い物なんてありません!

 また明朝からお手合わせお願いしますね」


 「ああもちろん」


 そして俺達は夕食を終え、メリカちゃんは寝間着に着替え、俺は武具店で新しく買ったシャツに着替えて寝室に向かった。

 違うぞ?

 俺はリビングの床で寝ようとしたんだぞ?

 でも「今更ですよセツナさん!」って言われて引っ張られちゃあなあ。

 

 「あの、セツナさん」

 

 2人共がベッドに入ると、別に誰が聞いてるわけでもないのに、何故かメリカちゃんは小声で俺の名前を呼んだ。

 

 「どした?」


 「あの、抱き着いても良いですか?」


 はぁあん?

 良いよ?

 積極的に過ぎないか?と疑問に思うが、こういう事に慣れていないのは明らかだ。

 顔半分布団に潜っているが、エルフほどの長さ、大きさではないが、ハーフエルフの血を継ぐメリカちゃんの特徴的な耳まで真っ赤になっている。 

 というか、やはりベッドが狭いな。

 仰向けで寝ると肩が布団から出てしまう、かと言ってメリカちゃんに背中を向けて寝るのは嫌だ。

 なので、俺もメリカちゃんの方に向く。


 「ほら、おいで」


 一瞬躊躇っていたが、メリカちゃんは俺の背中に手を回して来た。

 腕枕でも、と思ったが身長差故か、メリカちゃんの頭は俺の胸付近にある。

 ヤバい、何がやばいって、もう色々ですわ。


 「ごめんなさい、寝辛かったら言ってください。

 すぐ離れます」


 「やだね~。

 寝辛くても言わない

 もしメリカちゃんが離れたら、俺はリビングの床で寝る」


 断固断る。

 これぞ至福の時。

 この時間を噛み締められるなら、邪神すら倒しちゃうなあ。


 「もう、意地悪――」


 う〜んメリカちゃん、抱き締めてくれるのは嬉しいんだけどねえ。

 背骨折れる、折れちゃう。

 ……力が抜けた?寝たかな?

 じゃあ俺は今から煩悩と戦って、今日もメリカちゃんを俺という男から守りますかね。

 お風呂が無いので洗浄の魔法で服着たまま全身洗ったのは2人共同じ。

 なのになんで女の子って良い匂いするのかねえ。

 ……ええい、そういう事は考えるな。

 柔らかいなあ、あんな軽々大剣持ち上げるのに筋肉付いてなくね?

 ……だから、そういう事は考えるなって!

 可愛いなあメリカちゃん。

 ……それはそう。

 

 「あの、セツナさん、やっぱり寝辛いですか?」

 

 今胸元から見上げて来ないで!

 その行動は理性が飛ぶ!!


 「大丈夫、大丈夫だよ」


 あ~顔が近ぁあい。

 

 「ん」


 メリカちゃん、なぁにしてんの!?

 いや分かってるよ、目を閉じてそれでも顔はこちらを見上げてる。

 唇は自然だが、若干開かれ、顔は真っ赤だ。

 いわゆるキス顔!

 良いのかメリカちゃん、プロポーズはしたけど。

 俺達はまだ出会ってまだ間も――。

 アホか俺は。

 女の子にここまでされて引いたんじゃ、ヘタレ確定だ。

 軽く、そう軽くお休みのキスをするだけ。


 「っん」


 「じゃあお休みメリカちゃん」


 「はい、お休みなさいセツナさん」


 やったあ!

 やっちまった!

 成人しているとはいえ、見た目十代半ばの少女とキスしてしまった!

 ありがとうございます。

 よし、寝よう。


 翌朝、2人して顔を見合わせて照れまくるハメになった。

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