夜の訪問者
家に着いてベッドにメリカちゃんを寝かせる。
本来なら寝苦しくないように服を脱がせ、寝間着に着替させるべきなんだが。
出来るかぁあ!
意識を失って眠っている幼気な少女の服を脱がす事など、出来ぬ!
するなら、同意の上で、ああいやいや、そういう事ではなくて。
「嬉しそうな顔して寝てるなあ」
明日からクエスト頑張って、まずは金を貯めて。
家を建てたいなあ。
この家は二人暮らしが限界だ、子供が産まれたら……気が早すぎるか。
しかし家庭を持つ、か。
今までの転生で彼女がいた事はあったが、一度たりとも家庭を持つ事はなかったなあ。
だいたいその前に死んだり、死なれたりしたからな。
「絶対に守るから」
そうだ、メリカちゃんを失いたくないから。
冒険者を辞めろなんて言わない、俺が絶対に守り抜く、メリカちゃんが天に召されるまでは俺が――。
「はわわ」
はわわ?
「メリカちゃん、目を覚ました――」
「う〜」
あっ、目覚めたと思ったらまた気を失った。
可愛いなあ。
さて、じゃあこの眠りを邪魔しないように。
「外の掃除を済ませるかなあ」
インベントリから装備をセットして、リビングへ行き、魔光灯を消して家のドアを開ける。
まったく、まだ日が落ちたばかりだというのに。
無粋な輩もいたものだ。
「人の家を取り囲んで、何か用か?」
常時発動型の探知スキルに敵対心を持つ者の固有の反応があったので、外に出てみたら。
そこには重武装の騎士が数名、メリカちゃんの家を取り囲むように配置されていた。
「すまんな、夕食時に。
貴殿が新人冒険者のセツナで間違いないか」
「だったら?」
「メリカ嬢から手を引いては貰えんか、ある方がメリカ嬢にぞっこんでな。
突然現れた君が邪魔なんだそうだ」
大盾にロングソード、どちらにもグリフォンの記章。
何処かの貴族か。
「この記章を見れば分かるだろう? 我々はザァマ子爵家の騎士である」
「いや、知らん」
「なっ、貴様ザァマ様を侮辱するのか!?
アルタの街に暮らしていてザァマ家を知らないなどと貴様!」
生後二日やそこらの俺に何を言ってるんだか。
この街の事なんてギルドと爺さんの武具店の場所しか知らんわ。
メリカちゃん可愛いからなあ、ギルドマスターと知り合いだし。
そのギルドマスターの元パーティーメンバーにご両親がいた訳だしこういう手合いが居そうだなあとは思っていたが。
「俺はこの街に来てまだ一週間と経ってないんだ。
ザァマだかザマァだか知らんが帰れ。
彼女の眠りを妨げるな」
「て、手荒な真似はしたく無かったが、仕方あるまい」
家を囲んでいた数人が全員こっちに来たか。
メリカちゃんをどうこうしようという気は無いみたいだ。
「我が主の言葉だ『英雄の娘には貴族の方が相応しい、何処の馬の骨かも分からん冒険者風情にメリカ嬢は渡せん邪魔するなら殺せ』そう言われている。
この街から消えるなら私達は何もせん、だが、歯向かうなら――」
「うるさい、静かにしろ」
ちょっとずつ歩いて、家から離れているが、大声なんて出されちゃメリカちゃんの睡眠の邪魔になりかねん。
結界魔法使うか。
発動キーは指パッチン。
これ好きなんだよねえ、地球にいた頃はよく妄想したもんだよ、指パッチンで魔法発動させるの。
「貴様、何を――」
「防音しただけだよ、ただでさえ鎧がガシャガシャうるさいんだからさあ。
今なら見逃すからお前らの主に伝えてくれないか?
文句あるなら直接出向いてこい豚野郎ってな」
いや太ってるかは知らんが、なんかほらそう言うイメージってあるよね。
めっちゃイケメンとかならすまん。
まあ俺達の仲を裂こうってんなら、どっちにしろ許さんが。
「貴様、言ってはならん事を言ったな、いくら本当の事とはいえ!」
「許さん?」
「許さん!」
お、全員抜剣したか。
じゃあ遠慮はいらんな。




