メリカの理由
「じゃあ今日もお世話になろうかな。
またメリカちゃんの家にお邪魔するね」
「いつまでも、居て下さい」
さらっとプロポーズされてない?
いや、きっとそんなつもりで言ってないよな。
「ははは、じゃあクエスト頑張って、まずはベッドを新調しなきゃねえ。
あのベッドで二人はちょっと狭いからさ」
「私は……狭くても良いです……くっついて眠れるから」
雑踏の音にかき消されるくらい、メリカちゃんの声は小さかった。
が! 舐めてもらっては困る! 俺の耳がメリカちゃんの最後の一言を聞き逃すはずもない!
…………落ち着け、落ち着くんだ俺。
この抱き締めたい衝動に負けてなるものか。
まだだ、まだその時じゃない。
「メリカちゃん、明日はクエスト受けようね」
「はい! 初めての多人数用クエスト、よろしくおねがいします!」
俺は、ソロのクエストすら受けた事無いんだが。
メリカちゃんが嬉しそうだから良し!
帰り道にギルドの前を通った際、メリカちゃんがギルドの中へ駆けていき、ものの数分足らずで再び外に出てきた。
「パーティー登録、完了しましたセツナさん」
「早かったね」
「この時間はパーティー申請受付は申込者が少ないので」
微笑むメリカちゃんの後ろからギルドから溢れた光で後光がさしているように見えるわけだが。
なんだ天使か。
知り合いの女神様も後光さしてたなあ。
「……あの、セツナさん」
「ん? どうした?」
「……て……手を繋いでも……良いですか?」
もちろんだが?
なんなら両手に荷物持ってたとしてもそちらを優先するが?
こんなに可愛いメリカちゃんが、なんで冒険者をやってるのか。
ご両親も冒険者だったらしいし。
強さにこだわったり、ソロで活動していたり。
こうやって色恋に積極的な辺り復讐の為、と言うわけではなさそうなんだよなあ。
プライベートな事だし、聞いてみても良いもんか。
「あの、セツナさん……やっぱりご迷惑でしたか?」
「いや、メリカちゃんがなんで冒険者をしてるか気になって」
口が滑ったぁあ!
なあに普通に口に出してんの!?
無神経か!
嫌われたらどうすんの? 馬鹿なの?
「見たい景色が、あるんです」
「景色?」
そうして、メリカちゃんは自分が何故冒険者をしているのかを話し始めてくれた。
「私がまだ小さい頃、お父さんとお母さんがよく昔の冒険の話をしてくれました。
あのクエストを受けた時はこんな事があった、ダンジョンの最下層にこんなボスが居た。
訪れた辺境で出会いがあった。
色んな話を聞きました。
好きな人との冒険は同じクエストでも全く違う楽しさがある。
好きな人とのダンジョン探索は同じダンジョンでも全く違う景色が見れる。
両親は本当に楽しそうに言っていました」
メリカちゃんの横顔は寂しそうに見えるが、誇らしげでもあった。
好きだったんだろうなあ、お父さんとお母さんの事。
「だから私もいつか好きになった人と一緒に冒険して、お父さんとお母さんが一緒に見た景色を見てみたくて。
でも、私、本当にセツナさんと出会うまで、好きっていうのがよく分からなくて。
いつか誰かを好きになれるまでは一人で冒険者として頑張ろう、そう思っていたら、いつの間にかBランクになってました。
実を言うと、昨日。
今日の指導員としての仕事を最後に冒険者を辞めてギルドの職員として働くって、ヴィゼルさんに言うつもりでした。
でも、夢で女神様が言った通りに、あなたに出会って……もしかしたら本当にこの人ならって思ったんです」
「じゃあ女神様には感謝だなあ」
「はい、だから……私と――」
ここまで女の子に言わせたのだ、答えないわけにはいかん。
俺も冒険は好きだし、何よりもメリカちゃんが好きだ。
昨日出会ったばかりなのにずっと前から付き合っていたようにすら感じる。
「俺は冒険者になりたての新人だ、しかも今日の出費で金もほとんど無くなった」
「は、はい」
「もしかしたら、メリカちゃんが想ってくれるほど大した奴では無いかもしれない。
それでも良いなら、結婚を前提に俺と付き合ってくれないか」
長い転生生活で初めてのプロポーズだ。
もっと時間をかけたりムードを作ったりした方が良いのかも知れないが。
いや、言葉にするのに重要なのはタイミングだ。
いくら時間をかけたりムードを作ったりしても、その時言葉として出て来なければなんの意味もないのだから。
「あ、えっと、あの、その、はわわわ」
「メリカちゃん? お〜い、メリカちゃん?」
き、気絶した!?
顔が真っ赤だ。
どうする? いや考えるまでもない。
こういう時はお姫様抱っこだろ!
短距離転移で一気にメリカちゃんの家まで行くか。




