帰り道
絶対数で言えば、冒険者に武術家は少ない。
それはそうだろう、武術というのは本来、対人戦闘用だ。
自分よりも遥かに巨大な魔物相手に素手で立ち向かう物好きなど、よほどの実力者か無謀なおバカさんだ。
まあその点は問題無いだろう、一度女神様の力を借りてはいるが、俺は星を砕いたのだ。
惜しむらくは。
「武術着とかは無いんだよなあ」
当然といえば当然か。
少数派だもんなあ。
なら、剣士用の手甲とライトアーマーだけ買って。
採取用のナイフと片刃の剣も一応買う。
インベントリから装備したら腰にでも掛けるようにセットしておくか。
いつしか憧れた黒装束の二刀流剣士に習ってコートも買っておこう。
ふむ、シーフと剣士の間みたいな装備になったな。
「ありがとう爺さん、良い物が揃えられたよ」
「なあに、こっちも見所のある冒険者に買ってもらえて満足さ、ダミーに一切引っ掛からなかった冒険者がいたって工房の連中への話の種も出来た。
お嬢ちゃんの剣のダウンサイジングもそろそろ終わるだろう、その分の代金はまけとくよ」
「随分気前が良いな」
「まあ今後とも宜しくってこった」
気持ちの良い笑顔で爺さんは笑った。
メリカちゃんがここに入る時に「私は、武具はここでしか買いません」と言っていたが、納得だなあ。
爺さんの思惑通り、また来よう。
「お待たせしましたセツナさん。
はわあ、格好良いですねえコート」
大剣を抱えてメリカちゃんが戻ってきた。
何やら大剣の柄に赤いリボンが結ばれている。
誰だリボン着けたの、絵面が面白いじゃないか。
「黒地に赤いラインが気に入ってねえ。
そっちはまたなんというか、バスターソードが可愛くなっちゃって」
「大剣にリサイズの魔法を掛けてくれた店主さんの奥さんが結んでくれました。
可愛いですよね」
「ほれほれ、イチャイチャすんなら家でやりな。
良い冒険者ライフを。
お前さん達、簡単に死んでくれるなよ?」
爺さんの言葉にメリカちゃんが照れて下を向いてしまった。
まあ買い物は終わったわけだし、退散するか。
「ありがとう爺さん、また来るよ」
「ああ、またな」
店を出るとそろそろ日が暮れそうだ。
どこからかゴーンゴーンと5回、低い鐘の音が聴こえてきた。
「じゃあメリカちゃん、明日何処で待ちあわせする?」
「え? 一緒に……居てくれないんですか」
涙目やめて!
いや、ごめんね。
多分そういう反応するだろうなあとは思ってたんだけどねえ。
でも、なんかほら、さも当たり前のように「じゃあメリカちゃんの家に帰ろう」って言うのはヒモみたいでなんか違うというか。
「いや、ほら未婚の女性と男が一つ屋根の下、同じベッドで寝るっていうのはさ、危険じゃない?
俺も男だからね、メリカちゃんを襲っちゃ――」
「私は、それでも構いません! お母さんも言ってました『冒険者たるもの、いつ死ぬか分からないんだから、心にビビッと来た男がいたら絶対離すな』って!」
メリカちゃんのお母様、何を娘に教えてるんですかあなたは。




