嫁達と合流しました
しばらく塔を走り昇って行くと変わった部屋に出た。
いや、見た目には今までの階層と同じで黒っぽい石造りのフロアが広がっているのだが、真ん中にポツンと一つ魔法陣が床に光っていた。
読み解くまでもない。
転移用の魔法陣だ。
しばらくフロアを壁沿いに見て回るが、変わったギミックも上への階段も無い。
ならば行くしかないな。
そう思いたって転移用の魔法陣を踏んだ。
そしてたどり着いたのはフロアの真ん中に木の生えている小高い丘のような場所だった。
壁がある為にダンジョン内だとは理解出来るが、なんともアンバランスな所だ。
その真ん中の木の根本、疲れているのだろう、座って項垂れている嫁達の姿があった。
気配察知には嫁達の反応しかない。
敵がいないのか既に殲滅した後か。
なにはともあれ、俺は嫁達に声を掛けようと近付こうと一歩踏み出した。
しかし、その一歩踏み出した足音に気が付いたメリカとユイリが一目散に俺に目掛けて駆けてきて飛びついた。
「良かった。セツナさん無事だったんですね!」
「いやあ、地下に転移させられてなあ。
ごめんな、心配掛けた」
「私もごめんねセツナ君。私のせいで私のせいで」
ここまで無傷だったんだが、ユイリの腹部への突撃でダメージを受けた気がした。
尻餅をついた俺の腹にユイリが抱き着き、メリカに頭を抱き締められている状況。
うーん、幸せ。
お腹は痛いけど。
「だから、言ったじゃないの……心配ないって」
聞こえてきたリリルの声に元気がない。
寂しかった、悲しかった、心配していた、そんな感情ではない。
ただただ疲れているといった様子だ。
「どうしたリリル?元気ないじゃないか」
「メリカとユイリが出鱈目な速度でフロア攻略して行くからよ。
とんだ体力お化けになっちゃって。
付いて行くのがやっとよ」
ああ、まあ。リリルも前衛二人について行けてる辺りは普通の魔法使いから見れば十分体力お化けになってるとは思うけど、敢えて何も言うまい。
「凄いもんだなあAランクダンジョンをあっさり攻略とは」
「私達は走ってただけですけどねえ」
シャオが汗を拭いながら言った。
どうやら皆もこの階層に辿り着いたのは先程のようだ。
メリカとユイリが先頭に立って敵を殲滅していくさま、見てみたかったなあ。
「地下に送られたそうですがそちらはどうでしたかセツナ」
「いやあ、どうもこうもねえよ――」
アルティナに聞かれ、俺は地下で見た物や戦った敵について話した。
俺が虫型の魔物が嫌いだというのは嫁達は知っている。
だからだろうか、メリカが「可哀想に」と哀れまれながらギュッと先程より強く抱き締めてくれた。
ちょっと頭が痛い。
でも嬉しい。
……違うよ?痛いから嬉しいとかでは無いよ?
「まあ無事再開出来た事だし、しばらく休憩してから上に行こう。
幸いここはこのダンジョンの休憩所みたいだからな」
「そうね、私は大賛成よ」
「ごめんね、リリル」
「リリル、ごめんなさい」
木の下に座るリリルの横に移動して、俺はリリルの頭を撫でた。
別にメリカやユイリに怒っている訳ではないのは分かる。
メリカやユイリが突っ走ろうとも本当に俺の事を心配していなかったならリリルはもっとゆっくり慎重にダンジョンを進んだ筈。
それなのに前衛職達と同じ様に凄まじい速度でダンジョンを進んだという事は、なんだかんだリリルも俺を心配していたんだろう。多分。
そうだったら嬉しいなあ。
「何よ」
「いやあ可愛いなあ俺の嫁、と思って」
「馬鹿」
はあ、可愛いいぃい!!
俺は心の中でそう叫んだ。
「セツナさん私達も撫でて下さい」
「はい喜んで」
メリカとユイリの頭も撫で、俺はそれでも思った。
こんなご褒美が待っていたとしても、あの地獄には戻るまい、と。




