武器屋に行こう
ギルドを出て、しばらく歩いて気付いた事がある。
武器屋どこ?
商業区か? いや鍛冶屋なら工業区か?
鍛冶屋から武器防具屋に卸しているなら商業区だが、鍛冶屋で直販してるなら工業区に行かなければならない。
「メリカちゃん、おすすめの武器屋とかある? 行きつけの鍛冶屋さんとか、メリカちゃん?」
あれ? 手を引いてるはずのメリカちゃんから反応が無い。
「うお、メリカちゃん顔、真っ赤! 大丈夫? 疲れた?」
「あ、いえ、そうではなくて。
誰かと手を繋いで歩くのは、家族以外では初めてなので。
嬉しい、というか、恥ずかしい、あ、いえ別に恥ずかしくは無いのですが。
ぶ、武器屋さんなら商業区によく行くお店が」
照れてる〜、緊張してる〜。
さっきのギルドでの様子とは全く違うなあ。
手を繋ぐだけでこの照れよう。
恋する少女は愛らしいなあ。
こっちまで照れくさくなる。
「じゃあその店まで案内頼むね」
大通りは馬車も走ってるし、大通り側は俺が歩くか。
「それにしても、ヴィゼルも、アドニア氏も良い人だよね」
沈黙は金と言う言葉があるが、今はその時ではない。
メリカちゃんが気まずくならない程度に話題を振ってあげないと。
「あの二人はお人好しなんです、特にギルドマスターは」
ギルドマスター? どっちが? アドニア氏かな? 貫録はあるしなあ。
そうか、あの人ギルドマスターなのか。
「ギルドマスターのヴィゼルさんは昔、両親とパーティーを組んでいたんです。
両親が亡くなった後、しばらくヴィゼルさんのご家族にお世話になってました」
「へえ、そうなんだ。
……え!? ヴィゼルがギルドマスターなのか!?」
違和感の正体はそれか、事務員にしては随分眼光鋭い、というか雰囲気が違うなあとは思っていたが、なるほど元冒険者、いやあの若さだ、冒険者も兼業でマスターをやってるのか。
なんで受付けにいたんだ? サボりか?
「ああやって受付けでマスターの業務をサボりながら、冒険者達の様子を眺めているんですよヴィゼルさんは。
不真面目です」
サボりか。
いや、でもまあそれは――
「客観的に見ればそうかもねえ。
でももしかしたら裏では凄い頑張ってるんじゃないか?」
あの手合いは、お仕事万能ハイスペックイケメンな気がする。
マスター業務も受付けも完璧にこなしていて、もしかしたら裏ではちょっと暗い仕事にも指示出ししてたりしてそうだ。
まあ、想像でしか無いが。
談笑しながら歩いているうちに緊張が解れたのか、俺の手を握るメリカちゃんの手から力が抜けている。
多分今手を離すと、メリカちゃんの手の跡が赤く残ってるだろうなあ。
見た目から想像出来ないくらい力強いからなあ。




