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中継地からマリネスへ

 「本当にありがとうございました、この御恩は一生忘れません」


 とまあ、街に辿り着いた際に助けた商人家族や捕らえられていた女性達に言い方は違えど感謝され、あとの事は常駐している衛兵に任せ、俺達はその日の宿を探すことにした。

 

 グランベルクやアルタに比べると小さな街だが、活気には溢れている。

 恐らく俺達と同じようにマリネスに向かう旅人や、ここを拠点に行商を行っている商人が多いからだろう。


 「今日は久々に飲むか」


 「お付き合いしますよセツナさん」


 「じゃあ酒場を探さないとねえ」


 露天商が売り出しているアクセサリーや珍しい骨董品、出店の屋台の食べ物を物色しながら街をあっちにフラフラ、こっちにフラフラしていると見つけました酒場と宿屋。


 木造りの扉が西部劇の酒場そのものみたいでちょっとワクワクする。

 中から聞こえる喧騒も実にそれっぽい。

 手で押してキィっと音をたてながら開いた扉の先、カウンターに恰幅の良いおばちゃんがグラスを拭いているのが見えた。

 繁盛はしているようだ。

 客は皆上機嫌な様子で酒や食事を楽しんでいる。


 「お姉さん、果汁酒下さい」


 「お姉さんって私の事かい?やだねえこんなおばちゃんに。まったく、口の上手いハーフエルフさんだ。

 果汁酒だね、ちょっと待ってな」


 カウンターのおばちゃんが上機嫌で酒を注ぎ始めた。

 楽しい旅の秘訣は現地の人と仲良くなることだと、俺は地球にいた頃から思っている。

 

 「はいお待ち。これはサービスだよ。

 随分綺麗なお嬢さん達を侍らせているじゃないか。冒険者かい?」


 お、やったね。

 酒のつまみに唐揚げを頂いた。

 揚げたてだろうか、湯気が出ている


 「皆俺の愛しい嫁です。

 夫婦で冒険者をしてます」

 

 「はあー。こりゃたまげた。

 そうかい夫婦かい。何処から来たんだい?」


 「アルタから竜車で。

 マリネスの海水浴場に行く途中でこの街に寄りました」


 カウンター席に全員座ると場所をとって邪魔そうなので、俺とメリカ以外は1番近くのテーブルに座ってもらった。

 待ってましたとおっさん連中がリリルやユイリをナンパしようと近付くが、二人が手の甲に婚姻の紋章を浮かび上がらせたので肩を落として去っていった。

 

 フッフッフ。俺の嫁さん達は可愛いだろう。


 「あんた達マリネスに行くって言ってたね。

 それなら今は止めときな」


 「何かあったんですか?」


 「いやあ、聞いた話しなんだけどねえ。

 マリネス近海に巨大な魔物が出るってんで海水浴場は今閉鎖中なんだってさ」


 「なん……だと。

 それは許せませんね。その魔物、俺達が討伐しますよ」


 「ハハハ!頼もしいね。

 でも気を付けるんだよ?以前も冒険者が討伐に行って返り討ちにあったらしいからね」

 

 ぐぬぬ。

 何故すんなり海水浴出来ないのか。

 どんな魔物か知らんが許せん。 

 許せんが、今日は酒場で酒と料理を楽しませて貰おう。


 好き好きに料理と酒を堪能した後は宿で二部屋借りて一泊。

 二日酔いするほど飲んだわけでもなかったので、スッキリ起床した俺達は再びマリネスへ向けて竜車を進める。


 朝中継地の街を出て、リュータを休ませながら竜車を走らせ、マリネスに到着したのは夕刻になった。


 緩やかな丘の街道を登った所で夕陽で染まったオレンジ色の海が見えた。

 宝石みたいにキラキラ輝いている海は本当に綺麗だ。


 「綺麗ですねセツナさん」


 「メリカの方が綺麗だよ」


 「はいはいごちそう様。

 そういうのは宿でやってちょうだい」


 リリルに茶化されてメリカの顔が紅く染まる。

 可愛いなあ。


 しかし、方角的に海に沈む太陽が見えないのは残念だなあ。

 とりあえず今晩はマリネスの宿で休んで、明日海水浴場へ行ってみよう。

 あの街の酒場のおばちゃんが言っていた事を確かめなければならない。


 マリネスのギルドに顔を出すのもありだな。 

 何か情報が得られるかも知れない。

 兎にも角にも話は明日だ。

 宿に到着したらさっさと寝てしまおう。 

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