精霊使い
メリカが振った大剣をミュナちゃんが盾で受け流し、片手に持つ剣を振る。
剣戟の応酬の最中、ミュナちゃんが姿勢を低くしてしゃがみ込んだかと思うと、不意に水面蹴りを放った。
「シャオとの近接格闘術の稽古がちゃんと生きてるな。良いセンスだ」
「ミュナは強くなってますか?」
「もちろん、日に日に上達してるよ。
それはもちろん君も同じだ。
ウアル少年に至っては俺の予想を遥かに超えてると言っても良いな」
「……煽てないでください」
煽ててるわけではないんだがなあ。
ウアル少年の悪い癖だ、自分に自信が無い。
どうにかして自信をもたせてやらないと、肝心な時に卑屈になって失敗しかねない。
メリカとミュナちゃんの稽古がしばらく続き、ミュナちゃんが肩で息をし始めた辺りで俺は二人を止めた。
「良いねミュナちゃん。メリカに教わった剣と盾のコンビネーションとシャオの体術がちょっとずつではあるが確実に備わってきてるのが分かるよ。
君達なら学校卒業までにグレートボアを倒せるようになりそうだ」
「本当ですか!?」
「ああ。俺が保証しよう」
「Sランク冒険者からのお墨付き程信用出来るものはありませんね」
ミュナちゃんが嬉しそうに笑った。
その笑顔にウアル少年も嬉しそうに微笑んでいる。
「よし。じゃあ今度はウアル少年の番だな。
メリカとミュナちゃんは休憩しててくれ」
メリカとミュナちゃんは俺の言う通り、玄関先のテラスの椅子へ向かうと休憩を始めた。
ミュナちゃんがどこか心配そうにウアル少年を見つめている。
「さあ思いっきり来い少年!」
「……ふうぅ……行きます」
気が弱い、実際出会った日はそういう印象を受けたがとんでも無い。
彼の目の奥から感じるのは間違いなく闘志だ。
俺が精霊使いとして導かなくても、彼は諦めずに冒険者を目指したのではないかと思う。
「クア!リータ!行くよ!」
ウアル少年が精霊を呼び出し、魔法を発動した。
水の槍と炎の槍を複数展開し、俺に目掛けて放ってきた。
良いな、ちゃんと2体と意思疎通出来ている。
迫る魔法の槍と同質の魔法をぶつけて相殺していると、ウアル少年が空に手を翳しているのが見えた。
ウアル少年が俺の上に出現させた無数の火球、2体の精霊が放った水の刃と炎の槍が同時では無くややタイミングをずらして俺に向かってきた。
これは避け辛い。
何発かは避けたが、全てを回避するのは不可能だった。
再び俺は精霊達の放った魔法を相殺。
ウアル少年の火球は拳で叩き落とす。
「……当たらない。なら!」
ウアル少年が飛び出してきた。杖を剣のように構えて俺に迫ると杖に魔力の刃を形成し斬り掛かって来る。
精霊使いは魔法使いとは根本的に違う。
リリルは例外だが、本来魔法使いは接近戦をしない。
しかし、精霊使いは精霊の加護で身体能力は近接職に迫るのだ。
ここ数日の稽古で一応近接戦闘もウアル少年には教えている。
単純な近接戦闘ならまだまだだが、精霊との連携を加味すれば中々のものだ。
「ははは!良いぞウアル少年!その調子だ!
攻めろ攻めろ!精霊達への指示も忘れるなよ?」
「……っはい!」
近接と遠距離魔法を一人でこなす万能職、それが精霊使い。
ウアル少年は予想以上の逸材だ。
もしかしたら本当にグランベルクの歴史に名を残すかも知れない。
しばらく稽古を続けているとウアル少年の限界が来たか、不意にウアル少年が膝を付いた。
「はあ、はあ、すみませんセツナさん直ぐに立ちます」
「いや、ここまでだ」
「大丈夫です……僕はまだ戦えます」
「魔力枯渇で倒れるつもりか?ミュナちゃんが心配するぞ?」
「……分かりました。ありがとうございましたセツナさん」
いやあ若者の成長は早いなあ。
才能があろうが無かろうが若いというのは素晴らしい。
是非何事にも挑戦してもらいたいものだ。
様々な経験が君達の未来をより良くするのだから。




