精霊とウアル少年
さて、まずはどうしようか。
悩むまでも無いか、精霊使いが最初にやることは決まっている。精霊との契約だ。
しかし問題は生来の魔力量の少なさだなあ。
後々増やしてあげるとして、今は精霊1体との契約がギリギリの魔力量だし、今回は1体だけ契約してもらうとするか。
契約出来れば精霊は可視化して他人にも見えるようになる。
今は俺とアルティナ、あとはメリカも視えてるみたいだ。
物珍しそうにチラチラこちらを見ているのが視界の端に映った。
もしこのまま帰ったらウアル少年は何もない場所を見つめたり、目で追ったり、話しかけたりする危ない人になってしまう。
「ウアル少年、君の周りを飛んでる精霊達で気にいった子はいるかい?」
「あ、えっと、あの……この青色の男の子でしょうか」
なるほどなるほど、1番元気にウアル少年の周りを飛んでいた子だな。
よほど選ばれたのが嬉しかったのか、まだ幼い精霊はウアル少年の頭に乗ってご満悦だ。
「じゃあ後はウアル少年がその子に契約を呼び掛けてくれ。
良く懐いてるから大丈夫なはずだ。契約完了すれば声が聞こえるようになる」
「は、はい。やってみます……せ、精霊さん、僕と契約してくれますか?」
お、どうやら成功かな?
幼い精霊がまた嬉しそうにウアル少年の周りを飛び始めた。
皆がこちらを向いている様子からも契約完了した精霊が可視化したのが伺えた。
よし、魔力供給はもう大丈夫だろ。
「おめでとうウアル少年。これで今日から君は精霊使いだ」
「ちょっとちょっとウアル、何なにその子超可愛いじゃない!」
「ミュナ……僕、精霊使いになっちゃった」
「へえ〜。そうなんだあ……え!?精霊使い!」
うむ、良い反応だ。
さてさて、精霊見たさに他の生徒がこっちに来る前に指導再開だ。
「ウアル少年、その子を使役して魔法を使ってみようか。
契約した精霊とは念話が可能だからどんな魔法を使ってほしいかイメージを具体的に伝えると良い。
色からしてその子は水属性だ、水魔法を何か使ってみよう」
「イメージを伝える……こう、でしょうか」
良いな、若い子は飲み込みが早い。
精霊は水球を複数造りだし、ウアル少年の周囲に浮かせた。
「で、出来ましたセツナさん!」
「良い感じだ、魔力の減りはどんな感じかな?」
「減ってる感じはありますが……いつも程では」
「それが精霊使いだ、魔法使い程魔力の消費が多くない。
まあ意思疎通をしなければならないから、若干魔法を使うまでにタイムラグが有る、その辺りの対策はちゃんと精霊と一緒にウアル少年が考えるんだ。良いね?」
「はい、頑張ります」
「精霊使いとはいえ、精霊に頼り切りも良くないからウアル少年の体力造りも忘れないように」
「う、わ、分かりました」
運動苦手なんだろうなあ。
俺も昔はそうだったなあ。
この後、しばらくウアル少年に指導していると、修練場にユイリとリリル、それともう一人、初老の女性が姿を見せた。
校長先生に挨拶に行くと言い、別れた後にいっしょに現れたのだからあの女性がこの学校の校長先生なのだろう。
夫として挨拶しておくべきかな?
「皆、しばらく休憩にしようか」
皆に言いながら、俺は修練場の入口へ向かう。
元気に手を振るユイリと、小さく手を振るリリルの間に立つ初老の女性がこちらに頭を下げてきたので、俺も頭を下げ返した。




