召喚獣アルティナ
到着から数日。
俺達が陣取るテルミアナ平原に、魔物の大軍勢の足音が地鳴りのように響いている。
蠢く様々な魔物達が地面を埋め尽くし、まるで津波が迫る様だ。
これじゃあ途中に掘った塹壕も爆破罠の魔法も焼け石に水だな。
集まった冒険者の数、およそ二千。
まだまだ援軍はこちらに向かっているそうだが、この数相手だと援軍が来たところで意味はなさないだろう。
距離はまだある。
魔法使いや弓使いは攻撃を開始したがやはり効果は薄い。
先頭集団を倒しても、魔物達は先頭集団の亡骸を踏み潰しながら獲物である俺達目掛けて突き進んできた。
「こんなの、どうしろって言うんだ」
「無理だ、いくらなんでも多過ぎる」
圧倒的な物量差に冒険者達は絶望している。
ここにはAランク冒険者達も数多く集まっているが、やはり魔物が無限に湧いて来る様な状況に顔色は悪い。
皆武器は構えるが誰一人踏み出そうとはしなかった。
頃合いだな。
俺はインベントリからダンジョンで獲得した金の服飾が施された白いコートに装備を変更した。
予め、メリカ達とは打ち合わせをしている。
俺が装備を変更したのを見て、メリカ達も装備を各々金の服飾、装飾が施された白系統の装備に変更していく。
次に召喚魔法で我が友、アルティナを召喚する手筈だ。
手の平を空に翳し、魔力を放出して空間に干渉してアルティナが通りやすいように大穴を開けた。
「召喚魔法か」
「この膨大な魔力、何を召喚するつもりだ?」
この段階で、召喚魔法を使える魔法使い達は俺が何をしようとしているか察したようだ。
良い感じに目立ってるな。
皆こちらに注目している。
絶望的な状況において、空に開いた大穴から舞い降りたアルティナの姿はどのように皆に映っただろうか。
煌めく白銀の龍鱗。
燃えるような紅い目。
強靭な四肢。
背中から生える巨大な翼。
側頭部から伸びる湾曲した大角は冠を思わせる。
その姿は今や伝説や伝承でのみ語られる存在。
主にワイバーンと呼ばれる竜では無く、まさにファンタジー世界に相応しいドラゴン、正真正銘の龍。
その中で最も古く、強大な力を持つ個体が我が友、アルティナの正体だ。
「まさか、この神々しさ聖光輝龍アルティナだとでも」
「馬鹿な。一介の冒険者の呼び掛けに、神の使いが応えたと言うのか」
皆が魔物の大群の存在を忘れ、静かに羽ばたくアルティナの姿に釘付けになっている。
静かに降り立ち、その巨体を伏せ、俺に向かって頭を下げるアルティナを、俺は撫でた。
懐かしい。
アルティナの頭を撫でてたのはアーティスの頃だからなあ、数千年ぶりか。
「アルティナ、よく俺の呼び掛けに応えてくれた。今俺達は絶望的な状況に陥っている。
どうか一緒に戦ってくれないか?」
「ええ、もちろんですとも我が友よ。
さあ命じなさい、私は貴方の声に従いますよ」
辺りにアルティナの声が響く。
静かで落ち着いた女性の声だ。
「よし。手始めに北から迫る魔物達を殲滅する!
ナルベリスの思い通りにはさせない!
薙ぎ払えアルティナ!」
俺の声に応えたアルティナが伏せた状態から四足で立ち上がり、反転。
口を開いて魔力を溜め込み圧縮すると、俺やリリルが放つ魔力による熱光線の何十倍はあろうかという威力の光を放った。
巨大な熱線は地面ごと魔物達を消し去り、射線上の遥か先に見える山までをも消し飛ばす。
こりゃあ魔物の後ろから進軍していたナルベリス軍も全滅したな。
例え魔物が何万体いようとアルティナにとっては有象無象。
その事実に、冒険者は沸き立った。
「や、やれる。やれるぞ!」
「勝てる!これなら勝てる!」
「ステラは神の使いと契約したのか。
凄い、俺達は新たな神話を目撃している」
先程までの絶望的な状況から一変。
皆の士気が高まっている。
しかし、アルティナの一撃があったとはいえ、まだまだ魔物は湧いてくるように群がって進軍を続けてきた。
さあ、ここからが本番だ。




