吸血鬼とお茶会
家に帰った俺達はアンサラーとダイニングでお茶をする流れとなった。
青年の姿から少年の姿に戻ったアンサラーがケーキを頬張る姿は幼い子供そのものだ。
ヴァンパイアロードの威厳は何処に行ったのやら。
「美味しいねこのケーキ。どこのお店のケーキ?」
「それは主様にレシピを教えていただき、私が調理した物ですアンサラー様」
「へえ〜、いや本当に美味しいよ。スミレちゃんだっけ?君なら一流のパティシエにもなれるよ」
「いえ、私は主様のメイドとして、妻として生きていくのを至福に感じていますので。
他の職に就くつもりはありません。
主様の後ろが私の居場所です」
「後ろ?横じゃなくて?」
「はい、後ろで御座います。
主様の横はメリカ様の居場所ですので」
スミレの言葉にメリカが頬を紅く染めている。
俺としては皆対等に接したいとは思っているが、やはりメリカ優先になってしまっている。
皆はそれで良いと言ってくれているが、皆の本心は分からない。
結婚しているとはいえ他人なのだから当たり前か。
「愛されてるねぇセツナ」
「それ以上に俺は皆を愛してる自信があるけどな」
「君さあ、良く恥ずかしげもなくそんな事言えるね」
「本心だからな」
「ハイハイ、ごちそう様」
俺とアンサラーのやり取りを聞いていた皆の頬がメリカと同時に紅く染まる。
とくにユイリとシャオは顔面真っ赤だ。
珍しい、二人は割とこういう甘言には耐性ある方なのに。
「しかしセツナはこの時期は忙しくなりそうだね」
「なんで?」
戦争に駆り出される可能性の話をしているのか?
いや、別にこの春先に絶対戦争してるわけじゃないだろ。
とは言え転生してからまだ1年経ってないから分からんけど。
「獣人族の繁殖期ってそろそろでしょ?
普通の人は一人の相手でも大変って聞くからね。
まあ夜は頑張ってね」
あ、ふ〜ん。そういう事かぁ。
獣人族は人と獣の遺伝子を持つ種族だからなあ。
そっかあこの春先の暖かくなってきた今の季節はそういう時期か。
じゃあ頑張らないとなあ色々と。
「ところでセツナは何が目的で英雄を量産しているの?
もしくは魔王って言った方が良い?」
「急に何言い出してんだアンサラー」
「君の力はこの世界の理を逸しているからもうどうしょうもないけど、後の5人もこのまま成長を続ければ英雄や魔王と呼ばれるに値する力を得る。
実際もう既に5人共片足突っ込んでるだろう?」
確かに、今のメリカ達の実力は並の冒険者や兵士、騎士などでは相手にならない。
アンサラーが言う通り、このまま皆を鍛えれば過去に生きた英雄と呼ばれた偉人達の力を越え、世界を滅ぼさんと現れた魔王よりも厄介な存在になるだろうなあ。
「世界のバランスを崩す存在になるようなら、いずれ僕は君達を殺さないといけなくなる。
でも親友のお嫁さん達とは戦いたくないからさ。
聞いておきたいんだ。
なんの為に強くなろうとしてるのか」
「私は、私達は出来るだけ長く一緒に皆で冒険者をやっていたいだけです」
アンサラーの問いに答えたのはメリカだった。
「……ふ〜ん、そっか。まあ良いや。
セツナが側にいる限り問題は起こさないだろうしね」
「そういう事。俺達はのんびり冒険者稼業を続けていたいだけなの。
愛する嫁達と出来るだけ長く平穏に暮らしたいだけなのさ」
「なら、北のナルベリスは君達の邪魔になりそうだよね」
「まあ、なんか不穏ではあるよな」
「僕は人同士の戦争には介入しない、今回の件が種火になって戦争が激化するようならその時は頼むよ」
「ああ大丈夫、吸血鬼の王様の手は煩わせないさ」




