吸血鬼がお宅訪問
アルタのギルドに帰った俺達を見て、当たり前のようにいつものクエスト受付カウンターに座るヴィゼルが笑って迎えてくれた。
「お帰り皆!良かった、無事だったんだね!」
「ああ俺達は無事だ。報告は此処で?」
「いや執務室に行こう。すまない後は任せるよ」
他の職員に受付を任せたヴィゼルの先導で俺達は皆でヴィゼルの執務室へ向かい、そこで山麓の村での出来事を説明した。
「そうか。村人も全員――」
執務机の近くに立つヴィゼルが顔を伏せて唇を噛み、拳を握った。
ヴィゼルは良い領主、いや良い奴だなと思う。
街の住人ならまだしも、恐らく顔も知らない、接点すらない村人達の死を悼む事が出来るのだから。
「血の繋がりが無いとは言え、同じ吸血鬼がしでかしたこと、心よりお詫びするよアルタの街のギルドマスター」
「セツナ。この子は?」
「ヴァンパイアロード」
「……ん?」
「アンサラーって言ってな。俺のええっと古い友人なんだ。
今回の事件が吸血鬼の仕業と聞いて粛清に来たところに出くわす形で再会してな。
ヴィゼルに謝りたいってんで一緒に来てもらった」
「今回の事件に関わった吸血鬼は僕の力を求めた馬鹿な魔法使いが過去に創り出した紛い物の乱造品。
僕が眷属にした子供達では無い、紛い物の眷属だから僕とは直接関係は無いんだけどね。
それでも吸血鬼ではあるから、こうなる前に粛清に動けなかった僕にも責任はある。
本当にすまなかった」
子供の姿から青年の姿に変化した後でアンサラーがヴィゼルに頭を下げた。
これに驚いたのはヴィゼルだけじゃなく俺も驚いた。
昔のアンサラーはもっと不遜で自己中で自分より格下に頭など下げる奴では無かったからだ。
「大人になったなアンサラー」
「『人は常に進歩する生き物だから』君が言った言葉だセツナ。
僕はそれを長い時間を掛けて実感してきた。
なら人より優れる僕だって進歩しないと『僕達の代わりに星を守って死んだ君に申し訳ない』と思ったんだよ」
僕達の代わりに星を守って死んだ君に申し訳ない。
その部分だけ念話で俺に伝えたのはアンサラーなりの気遣いか。
俺がアンサラーと最後に会ったのは千年以上前、ゼノリアだった時だったからなあ。
それから色々あったんだろうなあ。
「本当にヴァンパイアロードなのかい?あの伝説とか伝承とかに出てくる?」
ヴィゼルの疑問は最もだ。
しかし、証拠も何も無いしなあ。
だから俺は「そうだ」としか返答する事が出来なかった。
その答えにヴィゼルがメリカ達に視線を移す。
その視線にメリカ達全員が頷き肯定する事で、ヴィゼルは疲れたように苦笑した。
「君と出会ってから本当に色んな事が起きるねセツナ。
一体何処で何をすればヴァンパイアロードとお近づきになれるんだか」
「アルタの街でギルドマスターやっててもヴァンパイアロードとお近づきになれたじゃないかヴィゼル。
人生なんて小説や演劇よりも奇妙な事が起きるもんさ」
「……確かにね。
分かりました吸血鬼の王よ。
謝罪の意は受け取ります。我が領地の為に動いて下さりありがとう御座いました」
「いやいや、僕は間に合わなかったんだよ吸血鬼はセツナが倒した後だったからね」
「しかしナルベリスが関与していた、か。
分かった僕はこの事を陛下に伝えるよ。
ありがとうステラの皆。アンサラー殿。
今日はゆっくりと休んでくれ」
「そうさせてもらう。
じゃあなヴィゼル。また何かあったら俺達を頼ってくれ」
報告は終わった。
今日はもう家でゆっくりしよう。
そう思ってギルドを出て家に向うが。
「お前はいつまで付いてくる気だアンサラー」
「ええ、久しぶりにあった親友にそういう事言う?
良いじゃん君んち紹介してよ」
「まあ別に構わないけど……皆も良いか?」
皆頷いてくれた。
そりゃあそうか、拒否出来る相手じゃないもんな。
まあ気まぐれなコイツの事だ、飽きれば帰るだろ。
「まさか自宅にヴァンパイアロードが来るなんて、面白いですね」
メリカは強いなあ色んな意味で。




