王都からの使者
婚姻の洗礼から数日が経った。
来る寒冷期に備え、クエストがてら狩りに出掛けたり、暖炉用の薪を取りに行ったりとのんびり生活を送っていたそんな時。
我が家に来客があった。
対応したのはスミレ。
そのスミレがリビングに、訝しげな表情で戻ってきた。
「主様、王都グランベルクから女王陛下の特使の方がいらっしゃっています」
「……はあ〜。
なんだろうなあ、今日みたいな良い天気の日に。
分かった、俺が出るよ」
スミレの肩をポンポンと手の平で叩き、家の玄関に向かう。
国の特使相手に私服は不味いか?
一応装備のコートは着ておくか。
インベントリからクエストで装備しているコートを取り出して着用し、身なりを整えてから玄関の扉を開けた。
「お待たせしました、特使殿」
「おお、貴方がかのステラのセツナ殿。
あ、いや失礼致しました。
女王陛下より書簡を預かっておりまして、出来ればすぐ読んで頂いて返事を頂きたいのですが」
「拝見します」
さてさて、一体全体女王陛下は1冒険者でしかない俺にどんな手紙を書いたんだ?
ラブレターじゃないのは確かだけど。
……要約すると、この間俺達がグラニトで討伐したミスリルタートルの死骸を買いたいという内容だった。
金額は任意、特使に金額を伝えてほしいとも書いてある。
ミスリルタートルの死骸、素材は良い装備になる。
こんな寒冷期前に兵力を増強するつもりかな?
いや、寒冷期開けを見越しての兵力増強か?
あのサイズのミスリルタートルだ、肉も大量に手に入る。
兵糧にもなるよなあ。
もしかして戦争……いや、考えすぎか。
「ミスリルタートルの件、了解しました。
どうぞグラニトのギルドに預けているミスリルタートルの素材、全部持っていって下さいと陛下にお伝え下さい。
ギルドから正当な報酬を頂いているので金銭は結構、と言いたいところですが、特使殿の立場もありますからね。
金貨千枚を要求すると伝えてください」
「金貨千枚ですか?
あの大きさのミスリルならば金貨1万枚は下りませんよ」
あの大きさのミスリル、ね。
どうやら既にグラニトのミスリルタートルの素材は全部持ち出されているようだ。
随分急ぐじゃないか女王陛下。
ちょっとカマかけてみるか。
「グランベルク王国の為なら金貨千枚で構いませんよ。
女王陛下にお伝え下さい。
有事の際は我々ステラも力を貸す、と」
「ありがとうございます。
先のお言葉、しかと陛下にお伝え致します。
では私は、これにて失礼させて頂きます」
それだけ言って、特使のおじさんは護衛の騎士と共に帰っていった。
う〜ん、まいったなあ本当に戦争の準備っぽいなあ。
この国グランベルクは豊かな国だ水産資源、鉱山資源、食料、自然、人材。
どれを見ても足りないものは無い。
その分魔物も数が多く、手強い。
その魔物すら資源にしようってんだからたくましいものだ。
建国から二百年、グランベルクは隣国と小競り合いを続けているらしいが……大事にならなければ良いけどなあ。
戦争はしないに越したことはないんだから。
一応皆にも伝えておくか。
ついついため息が出てしまう。
もし戦争になったら嫁達には出向かないように言うつもりだけど、俺が行くって言ったら絶対付いてくるよなあ。
「主様、特使殿はなんと」
リビングに戻ると、皆が心配そうに俺を見た。
とりあえず国がこの間討伐したミスリルタートルを買いたいという話を伝える。
しかし、俺より長くグランベルクに生きるメリカやリリル、ユイリは国が戦争に備えている事を察した様だ、その顔に陰りが見える。
「まあまだ俺達冒険者が招集されるとは限らないし。
心配が杞憂に終わることを願おう」
「そうですね、以前も軍だけで対応出来ていたようですから」
まあ不確定な未来よりは、今後確実に来る寒冷期に備えるのが先か。
嫌だなあ戦争、アレは冒険みたいにワクワクドキドキ出来ないからなあ。
「セツナさん、新しい剣がそろそろ完成してると思うので、取りに行こうと思うんですが」
「付いて行って良い?」
「はい、もちろんです」
「師匠、僕もお供むぐう」
シャオの口をユイリが塞いで抑え込んだ。
気が利くなあユイリ。
リリルもスミレも加わってシャオをくすぐったりしている。
「じゃあちょっと行って来るよ」
「留守を頼みますね」




