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メリカの祖父母

 驚きも、度を過ぎると言葉を失うというが、俺の今の状況がまさにそうだ。

 旅館の仲居さんに案内され、向かったレストランにある1室。

 仲居さんによれば既に先方は到着しているという事だったので、メリカを先頭に個室の襖を開けて中に入る。


 そこにいたのは昨晩露天風呂で出会った美青年と白い髪の女性だった。


 「久しぶりです、お爺ちゃん、お婆ちゃん」


 「やあメリカ、久しぶり」


 「あらあ、メリカちゃん。

 大きく……なったかしら?」


 メリカの態度や嬉しそうな表情から他人でないことは明らか。

 そうだ、失念していた。

 メリカの祖父は竜人族、長命種だ。

 それもエルフ並に寿命が長い。

 一説ではエルフよりも寿命が長いと言われているのが竜人族、古の龍の血を継ぐ一族。

 ならばエルフと同様、年齢と外見は一致しない。


 「ははは、いやあ良い表情だ。

 昨日ぶりだねセツナ君。

 ごめんね、別に騙したり試したりするつもりじゃなかったんだけど」


 「あ、貴方がメリカのお爺さま」


 「お爺ちゃん、セツナさんと会ったんですか?」


 「昨日偶然お風呂を一緒にしてねえ」


 ちゃんと挨拶したかったのに驚きが勝ちすぎて言葉が口から出てこない。

 パクパク口だけが餌を欲しがる魚の様に開いて閉じてを繰り返す。


 「ほらほら、セツナさんも、お座んなさいな」


 「あ、はい失礼します」  


 メリカのお婆様に言われ、メリカの隣に座った。


 こちらの世界に来てから驚くことは山ほどあったが、今日の驚きは長い転生生活の中でも五指に入るくらいには驚いている。

 因みに1番驚いたのは初めて女神様に会った時だ。


 「えっと、あの。

 今回、お二人にはメリカさんとの、け、結婚を認めて頂きたくて、この度の席を用意して頂いたのですが」


 ぐわー!緊張するー!闘技大会なんて比じゃない!

 いやそもそも比べる様な次元ですらない!


 心臓がまるで全力運動後の様に鼓動が早い。


 知らなかったとは言え、俺は昨日メリカのお爺さまに何を話した!? 

 恥ずかしい!メリカを如何に好きかを延々身内に話したのか俺は!!

 穴があったら入りたい!いや、いっそ埋めてくれえ!!


 「もちろん良いよ。

 拒否するつもりもなかったが、いやあ、あれだけメリカを好きだと語られては快諾するよりないよ。

 あの後妻にも話したが、話している私も中々恥ずかしくてねえ」


 「良かったわねえメリカちゃん。

 愛されてるわねえ、セツナさんに」


 「な、何を話したんですかセツナさん」


 顔が熱い!恥ずかしくて顔から火が出そうとはこういう事か!

 

 メリカも同様だ、顔が赤い。

 

 「メリカ、彼はねえ、お風呂に入っている間、私に――」


 ああ、お爺さまの口を塞いで制止出来るわけもない。

 昨日風呂で語ったメリカへの思いの丈が全部晒されてしまう。

 止めて下さい恥ずかしくて死んでしまいます。


 「――てな具合でねえ、聞いてるこっちが恥ずかしくなっちゃって、先にお風呂から逃げ出してしまった始末さ」


 「あう、嬉しい、です。

 ありがとうございます、セツナさん」


 いよいよメリカが茹で蛸の様に真っ赤になってしまった。

 こちらを見るメリカの目が潤んでいる。

 口元は嬉しいのか恥ずかしいのか、半笑い状態だ。


 「ははは、仲睦まじいとはこの事だね。

 いやあ初めてメリカから手紙が来た時は半信半疑だったんだよ。

 人見知りのメリカに恋人が出来たなんて、それもメリカから告白するなんて、ってね」


 聞けばメリカは闘技大会が始まる前に、商業ギルドを通じて何通か祖父母と手紙のやり取りをしていたらしい。


 主に近況や俺の事、皆との生活の事、そして闘技大会への招待。

 色々手紙に綴っていた様だ。


 「私と妻は君達の結婚を祝福するよ。

 二人の先行きに幸多からんことを。

 メリカ、セツナ君と末永く幸せにね」


 「他の婚約者さんとセツナさんを取り合って仲違いしては駄目ですよ?

 家族なんだから、皆で仲良くね」


 「はい、ありがとうございます、お爺ちゃん、お婆ちゃん。

 皆で幸せになります」


 「俺も頑張って皆と幸せになります」


 「うんうん、良い答えだ。

 さあ、そろそろ食事にしようか」


 その後は談笑しながら皆で食事に舌鼓を打った。

 お二人はこの旅館から離れて位置するグラニトの居住区に住んでいるらしい。

 食事を終え、帰る際に「次グラニトに来たら皆で家においで、歓迎するよ」と残して、お二人は帰路についた。


 仲良く手を繋いで歩く後ろ姿に、未来の俺とメリカの姿を重ねる。


 「俺達もあんな仲の良い夫婦になりたいなあ」


 「もうなってますよ、セツナさん」


 手を繋いできたメリカの手を握り返す。

 ああ、確かにそうだ仲の良さなら誰にも負けないかもしれない。


 「それにしてもメリカのお婆ちゃん若かったな、五十路とは思えないよ」


 「お婆ちゃんは竜人族のお爺ちゃんの、その、あの……体液を取り込んでいますから。

 美貌はそのままに寿命も長くなっているそうです」


 「へえ。

 まあ確かに龍の血を取り込んでる事と同義だもんなあ。

 ……あれ、ならリリルも」


 「……もしかしたら既に人間の寿命ではなくなっているかも知れません」


 まあ、そのね。

 今まで夜に皆で仲良くやってる時にね。

 ほら、色々絡んでるからね。

 

 メリカのお婆ちゃん、髪は白かったが、肌艶はどう見ても二十代から三十代といった具合だった。

 先祖返りしているメリカの体液を取り込んだ可能性があるリリルやユイリ、スミレも恐らく寿命が伸びている。

 

 どうやら皆とは本当に末永く暮らせそうだ。

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