ヒュージアント殲滅戦
「少し離れてな、よし良い子だ」
目的地まで走った竜車から降りて、竜を撫でる。
こちらの言葉を理解出来る頭の良い子だ、心配そうに鳴きながらも離れていった。
「初手で仕留めるつもりでいくから、リリルは右から中央に向かって扇状になるように複合魔法の熱光線を頼む。
俺も逆サイドから同じ魔法で挟み込むよ」
「分かったわ」
土煙が迫ってくる。
おびただしい数の足音も聞こえてきた。
黄色と茶色の斑模様の巨躯に赤い複眼がギラギラ怒りを表すかのように輝いている。
俺は手を翳し、リリルは短剣を照準代わりに突出して構える。
「3つ数える!
3、2、1、今!!」
俺とリリルの熱光線の発射タイミングは完璧だった。
放たれた熱光線はリリルが闘技大会で放った物とは別物だ。
威力も範囲も桁が違う。
火魔法と光魔法の複合魔法の威力は絶大、一撃でヒュージアント達を消滅させていく。
半年掛けて俺から魔法を学んだリリルは、俺の知る限り人間の中では最強の魔法使いだ。
魔法が届く範囲も目算では測れなくなってしまった。
今使ってる全力の熱光線も、街中で使えば簡単に街を平地に変えることが出来るだろう。
「あわわ」
「流石です主様、リリル様」
「まだだ、悪い!残った!」
初めて全力のリリルの魔法を見て、シャオが冷や汗をかいて驚愕している。
しかし、それでもヒュージアントの群れを全滅には追いやれなかった。
前方のヒュージアントが盾の役割を果たしたか、まだ相当数残っている。
「行きます!」
メリカがバスターソードを肩に担いで構え、魔力を流し込む。
噴出する魔力を刃に変えて放たれた斬撃は、多数のヒュージアント共に大地を割った。
「続きますメリカ様!」
スミレも居合の構えのまま魔力を刀に込めていく。
メリカの遠距離斬撃に着想を得て編み出したスミレのオリジナルスキル。
メリカの遠距離斬撃とはまた違う、斬る事に特化させた遠距離斬撃。
いや、遠距離に対応した居合だ。
横一閃、スミレは更に多数のヒュージアントを一刀のもと斬り伏せた。
ズルリと切断されたヒュージアントが崩れ落ちる。
「よし、残敵掃討だ、みんな気は抜かないようにな」
視界に入るヒュージアントも残り数匹程度。
どれも死に体だ。
シャオも強化した拳や足技でもって軽く撃破し、ユイリも機動力を活かして、強力なハルバードでの一撃でもってヒュージアント達を殲滅していく。
「ふう、どうにかなったか」
「セツナさん、まだです」
一息ついていると、龍眼を発動したメリカが冷や汗を流しながら言った。
気配察知にも再び無数の反応が表れる。
第二波だ。
距離はまだ大分あるが、こちらに向かっているのは確かだ。
仲間の体液の匂いにつられたか。
「キリがないなあ、仕方無い。
一気に焼くか」
気配察知スキルで周囲を確かめるが、ヒュージアントの群れ以外の反応は俺達だけ。
なら、ここは個人的に好きな魔法ランキング1位の大技でもって殲滅するか。
こっちの世界で魔法が使えるようになってから研鑽に研鑽を重ねたこの魔法。
指を鳴らすために親指と中指に力を込める。
狙うはヒュージアントの群れの中心。
火魔法単体では間違いなくコレが最大火力。
魔力を束ね、火属性に変換し、周囲の空気中の酸素と水素をひたすら集める。
定めた地点をヒュージアントの群れが通り過ぎたのを確認して、俺は指を鳴らすのをトリガーに魔法を発動させた。
一瞬の閃光の後、爆発が起こり、ヒュージアントの群れを爆炎が焼き、爆風が身体をバラバラに吹き飛ばしていく。
爆発の衝撃波と熱から皆を守るために結界を張るが、数キロ先で起こった爆発はそれでも結界を揺らした。
巻き上げられた砂塵と煙が晴れていく。
晴れた煙幕の向こうに見えたのは、ヒュージアントの群れを破壊し尽くした痕跡。
巨大なクレーターだけが残っていた。
「これが、俺のエクスプロージョンだ」
「セツナさん、やり過ぎです」
「セツナ君やり過ぎだよ!」
「師匠やり過ぎです」
ええ、頑張ったのに。
うーむ、なぜなのか。




