目覚めたシャオ
しばらく嫁達と談笑していると、シャオちゃんに反応があった。
目を擦り、リリルの膝から上体を起こすと現状を把握してか飛び起きるシャオちゃん。
「は、生きてる!僕死んでないよね!?」
「生きてる生きてる、殺しはしないよ」
なんか拷問中の台詞みたいになったな。
「負けた、僕が、あんなにあっさり」
項垂れて露骨に落ち込んでいる。
それもそうか、先日の闘技大会個人戦優勝者だもんなあ。
同格の、Aランクに上がりたての俺に負けたらそりゃあ落ち込むか。
「で、シャオちゃんや、なんでいきなり勝負なんて挑んできたんだい?」
「ぐ、負けた者が強者に従うのは世の定め。
お答えします。
僕は拳術、闘魔武神流の後継者、本家筋の者なのですが本家の習わしに従い、冒険者として弱き者を助けながら旅をしていまして。
Aランク冒険者の兄弟子に推薦してもらってあの大会に出たのですが、そこに闘魔武神流とよく似た技を使う貴方を見つけて――」
弱き者を助けながら、か。
昔、闘魔武神流の開祖になった小僧を連れて、世直しの旅とか言って放浪してたけど、それに習ったのか?
それを千年以上も伝えるか、面白い。
ん?待てよ?
本家筋と言ったな。
という事はシャオちゃんはあの小僧の子孫なのか!
こいつは面白い縁だ。
「真相を確かめたい、手合わせをしたいと思い立ったら、いても立ってもいられず、王都を発ってこの街に足を向けてました。
ギルドに行ったら受付のお兄さんがこの場所を教えてくれたので、不躾にも昂りを抑えられずあんな事を――」
ヴィゼルめ、プライバシーと言う言葉を知らんのか。
個人情報じゃねえか……と言ったところでここ地球じゃないしなあ。
「セツナさんは、何故あんなに強いのですか?
自慢になってしまいますが、僕は歴代の後継者の中でも1番強いと言われ、それに見合う鍛錬もしてきたつもりです。
それを歯牙にもかけない腕前、正直な話し、兄弟子ですらあそこまで強くありませんし、何よりも闘技大会で拝見した技の数々はとても精錬されていました。
師匠ですらあんなに強力な技は使えません。
教えてくれませんか、セツナさんの強さの理由」
キラキラした瞳だ。
初対面はちょっと無礼だったが、根は良い子らしい。
しかし、強さの理由か。
闘魔武神流の開祖の師匠の生まれ変わりと言うわけにもいかないしなあ。
言ったところで信じてもくれんだろうし。
嫁達まで興味津々だ。
身の上話なんてしてこなかったからだろうか。
いっても転生して半年だから語る身の上話なんてないわけだけど。
よし、こうしよう。
「闘魔武神流の開祖は確かシンと言ったかな?」
「そうですけど、やはりセツナさんも武神流なのですか!?」
そうか、本当にあの小僧が開祖なのか。
「いや、俺は武神流を最近まで知らなかったくらいだ。
俺の使う技は闘魔武神流ではないよ」
「では一体」
よし、ここからは出来るだけ納得出来そうな作り話をするか。
「これは俺の一族に伝わる話なんだが……その前に、闘魔武神流の開祖シン殿の師匠は知っているかい?」
「嘘か真か、真偽は定かではありませんが星降を解決に導いた武の神ゼノリア様が師匠だと書物にはありましたが」
「そのゼノリアの子孫なんだよ俺」
本人だけどな。
適当過ぎたか?
顎に手を当てて考え込んでしまった。
嫁達からは「そんなまさかー!」って笑いが起きるとすら思ったのに。
なんだろう、ああ〜なる程ね〜みたいな空気がただよっていた。




