高校の文化祭で、婚約破棄をする浮気者の王子役をやったら、お味噌汁が原因で、本当に婚約破棄をしたがっていると思われた俺の話
『第3回「下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ」大賞』参加作なので、千文字以内の超短編です。
「君との婚約を破棄する!」
舞台の上で、俺の声が響いた。
観客はひそひそ話をやめて、俺を見上げる。
つかみはOKだ。
俺は主役を指さしたまま、静かに息を飲んだ。
次は彼女の台詞。
しかし彼女は、悲しそうな顔をして口をつぐんだ。
どうした?
俺の役は浮気したクズ王子。
罵ってくれていいんだ。
祈るように見ても、彼女は何も言わない。
なぜ?
密室に閉じ込められたみたいに息苦しくなる。
計画が狂い、俺は呆然とした。
彼女は幼なじみで、初恋の人。
交差点沿いの豪邸に住む令嬢で、俺とは違う世界の人だ。
だけど母親同士が友達で、昔は彼女とよく遊んだんだ。
サイコロをふって双六をしたり、
雪だるまを作ったり、
こたつでお菓子を食べたり。
同じサッカーチームにも入ってたな。
結婚の約束もしたっけ。
車の助手席に彼女を乗せるのが夢だった。
でも中学の時。
彼女のお味噌汁がすごくて、ギャグ映画のように吹き出してしまった。
謝ったけど、俺たちの関係は元に戻らなかった。
今や彼女は女子サッカークラブのエース。
俺は家の都合でサッカーを諦め、演劇部に入りバイト三昧だ。
彼女との差は縮めようがない。
もういっそ盛大にフラれたくて。
部員不足を建前に、俺を罵る役を彼女に懇願した。
役は了承したはずだろ?
なぜ台詞を言わない。
時計の針の音だけが、舞台に響く。
静寂に焦って、俺は懐からカセットテープを出した。
「君には愛想がつきた。ここに記録された悪事を見れ──」
「異議あり!」
ヒーロー役のサーファー君が舞台に出る。
「それはオーパーツだな。
異界人の知識で作られた物。
君は異界人と通じているな!」
台詞が違う。
アドリブか?
狼狽えてると、背後から人影が。
「出番かぇ」
学食のマダム(72)。
当て馬役を了承してくれた優しい人だ。
「彼は私のお味噌汁に浮気していただけよ」
ん? お味噌汁に浮気?
「鏡太」
それ俺の本名。
「私のお味噌汁がまずいから、婚約破棄したいのよね?」
は?
「学食で貴方とマダムを見て、負けたと思ったの。
私たちの結婚は口約束だったし……
でも私は、鏡太が好きで好きで好きなの!」
愛のハットトリックが俺に決まる。
さすがエース。
「マダムにお味噌汁を習うから、見捨てないで」
彼女が泣き出した。
まるで、お味噌汁の不一致で別れ話をしているみたいだな。
んなバカな!
「婚約破棄、撤回!」
叫ぶと、彼女が俺に飛びつく。
俺は彼女を抱きしめたまま、すっころんだ。
最後までキマらない。
けど、幸せな幕引きだった。
とある方に影響されてお題全部入れにチャレンジしました。そこそこ、まとまっているとよいのですが。
ツッコミ、感想を聞かせてもらえると嬉しいです。第3回なろラジ大賞始まりましたね。
盛り上がりますよーに!
りすこ